華麗なるブルゴーニュ家とハプスブルグ家の歴史絵巻~ 「我らが姫君」マリー姫と「中世最後の騎士」マクシミリアン1世のかくも美しい愛の物語
【第2章】その55✤1461年2月17日 セント・オールバンズの戦い
【第2章】その55✤1461年2月17日 セント・オールバンズの戦い
モーティマーズ・クロスの戦いに敗れたものの、ランカスター軍司令官ジャスパー・チューダーはなんとか逃げ果(おお)せた。しかし父オーウェン・チューダーは不運にも捕らえられ、処刑されてしまった。まだ60歳だった父、ヘンリー6世の母后キャサリン・オブ・ヴァロワに愛された父の栄光の時代はヨーク家によって、いとも簡単に終わってしまったのだ。
「憎っくき、ヨークめ。父とそして兄エドムンドの仇は必ずや。必ずや、私とヘンリーが共に……」
ジャスパーの甥に当たるヘンリーは、兄エドムンドの一人息子で、だがまだほんの4歳の子供だった。
しかし、王妃キャサリンの血を引くチューダーの家には、今やジャスパーとヘンリーしかないのだ。
「ヘンリーをなんとしても立派に成長させ、再びチューダーの時代を築くのだ」
ジャスパーは今この先が全く見えない中でも、一途の希望を探していた。そして最後にいつもたどり着くのはヘンリーの存在だった。彼の存在は今にも消滅してしまいそうな、チューダー家の一筋の希望になっていたのだ。
しかしながら、この時のジャスパーでさえも、35年後にヘンリーを待ち受ける運命までは予想していなかったに違いない。チューダーをランカスター側の力強い身内として、要職や城(北ウェールズにあるデンビー城)を与えて重宝してきた現王妃のマーガレットでさえも……。
さて話は戻るが、ヨーク公エドワードはモーティマーズ・クロスの戦いに勝利し、マーガレット王妃軍を追っていた。しかし、王妃軍は予想よりも早く、ロンドンまで40kmという近郊に現れたため、ウォリック伯リチャード・ネヴィルが王妃軍のロンドン入りを阻止しなければならなかったのだ。
戦の準備はしていたものの、不意打ちをくらう形で始まったこの戦争では、さすがの軍師ウォリック伯リチャード・ネヴィルも自身の力を発揮できず、王妃軍のロンドンへの進軍を許してしまった。ウォリック伯リチャード・ネヴィルは敗戦の中なんとか逃れ、ヨーク公エドワードに合流するため西部へ急ぐが、彼の弟のジョン・ネヴィルなどは捕虜になってしまったのだった。
またこの戦いでは貴族よりも一般の下級兵士がたくさん亡くなり、貴族で亡くなったのはランカスター派のフェラーズ男爵ジョン・グレイのみだったという。あるところでは有名なあのジョン・グレイである。
実はもしこの時にジョン・グレイが死ななければ、後にヘンリー・チューダーが世に出ることもなかったかもしれない。ジョン・グレイの死によって、後でヨーク家に火種となる原因が生まれてしまうとは、この時はもちろん誰一人知らなかった。夫ジョン・グレイの死により、寡婦となったエリザベス・ウッドヴィルが数年後にはイングランド王妃になるとは、この時に一体誰が予想できただろうか。
さて、この戦勝により、王妃軍はヨーク側に囚われていたヘンリー6世をやっと奪回し、もはや王妃軍のロンドン入りも、ヘンリー6世の治世(ちせい)も、そして皇太子エドワードの復権も確実なものに見えていた。少なくとも王妃マーガレットは高らかに大笑いをしていたに違いない、ロンドンの街の城壁の門に着くまでは……。
なんと、王妃軍はロンドン市民達によって城門を閉じられ、街の中へ入ることができなかったのだ。というのも道中の王妃軍の兵士達の略奪がひどく、それを恐れた市民達が王妃軍をロンドン内へ入れることを断固阻止したからだ。
王妃軍の背後には、モーティマーズ・クロスの戦いで勝利したエドワード率いるヨーク軍がすぐそこまで迫(せま)って来ているという噂も流れ、ますます正気を失ってしまっている夫ヘンリー6世と、そして愛する息子エドワードと共に、王妃マーガレットは北へと逃げるしかなかったのだ。
目指す地はスコットランドだった。
Copyright@2022-kaorukyara
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます