華麗なるブルゴーニュ家とハプスブルグ家の歴史絵巻~ 「我らが姫君」マリー姫と「中世最後の騎士」マクシミリアン1世のかくも美しい愛の物語
【第2章】その54✤1461年2月2日 モーティマーズ・クロスの戦い
【第2章】その54✤1461年2月2日 モーティマーズ・クロスの戦い
カレーからイングランド中部のウェスト・ミッドランズに戻ったエドワードは決戦の準備に忙殺された。父リチャードが殺され、父の称号と王位権は彼に引き継がれ、4代目ヨーク公になったのだった。エドワードは今やヨーク家の当主であり、そしてヨーク側の戦況は危うく、ここで負ければ母セシリーはじめ親族一同、そして愛するベアトリスも全員捕まり、そのまま処刑されてしまうに違いない。
母方の従兄弟であり、武芸の師でもありウォリック伯(やはり年末の戦闘で亡くなったソールズベリー伯の息子)がロンドンで戦闘の準備をしている間に、エドワードはウェスト・ミッドランズのウィグモア城を拠点に兵を集めていた。
一方、ランカスター側で闘志も新たに次の戦いを待ち望んでいたのは、ジャスパー・チューダーやその父のオーウェン・チューダーだった。オーウェン・チューダーとはヘンリー6世の母である寡婦でもあった王妃キャサリン・オブ・ヴァロアの長年の愛人、法律的には認められなかったものの、2人の関係は事実婚であり、つまりこの息子達はヘンリー6世にとって父違いの異父兄でありながら、それでも王家の一員と認められていた上にヘンリー6世との関係も非常に良かった。
さて、この“チューダー”という名前、例え多少でもイギリス史を知っていたら気になるに違いない。
そう、あの有名なイングランド王家の“チューダー家”である。
後にイングランド王になるヘンリー7世やヘンリー8世、そしてメアリー1世やエリザベス1世を輩出した“チューダー家”だ。しかしこの戦闘の際には、後のヘンリー7世の父であるエドムンドは参加していない。何故なら彼は約5年前にはヨーク派のせいで亡くなっていたからだ。
そういうわけでチューダー家も、王妃マーガレット同様にヨーク家を深く憎んでいた。数年前までヘンリー6世のおかげで我が世の春を謳歌していたチューダー家の生活はたったこの数年で、没落していた。万が一、このままヨーク家の治世になれば、自分達一族は二度と日の目を見られないということはわかりきったことだったのだ。
年末のウェイクフィールドの戦いでヨーク公リチャードがいなくなった今こそ、ヨーク家を全滅させる絶好の機会に違いない。
当主がいなくなったため、18歳の若造が兵を率いるらしいが、戦闘経験も浅いそのエドワードなど一瞬で討ち取ってしまえば良いのだ---そう、この戦の直前、ランカスター側の誰もがこのように考えていたのだ。
かくしてこれまた、薔薇戦争の中でも政局を左右することになった、重要な戦いは始まった。
これが1461年2月2日のモーティマーズ・クロスの戦いだ。
エドワードが兵を集める拠点としたウィグモア城から南へ36km、ウォリック伯が準備をしていたロンドンからは西に230kmの、ウェールズの国境からそう遠くない場所でその戦闘は始まった。
というのもロンドンに近づいていたランカスター軍の主要部隊にチューダー軍が加わるのを阻止する必要があり、エドワードは約 6,000 人の兵士と共に、モーティマーズ・クロスに向かったのだった。
ヨーク側にはなんとしてもランカスター軍がロンドンに入ることを阻止する必要があった。この時ランカスター軍はロンドンへ行き、ヘンリー王が署名で認めた
「次期王はヨーク公リチャードの子孫」という誓約が書かれている議会の議事録を破棄させようとしていたのだ。
両軍は緊迫していたが、エドワード率いる兵士達は不安で落ち着かなかった。この戦さはどう見てもランカスター側に勝利の女神が微笑むように思えてならなかったからだ。
しかし実はこの戦において、非常に不思議な現象が起きる。
なんと天に「3つの太陽」が出現したのだ。これは「幻日(げんじつ)」という大気中に含まれる結晶が光を屈折させることによって起きる現象なのだが、エドワードはこれを利用した。
不吉な現象ではないかと恐れおののく兵士達に向かって
「これは“父と子と精霊”の三位一体をあらわすもの。つまり神が我々の戦いを守護している証」と兵士達を鼓舞したのだ。
「我らは神によって認められた官軍」なのだと説いたのだ。
この頃、科学現象より神の御神託を生活の指針にしていた中世の彼らにとって、実はこれは絶大な効果があった。
これによって兵士達の士気は否が応にも上がり、また優秀なヨーク側の顧問であったクロフト城のリチャード・クロフトの射手配置の作戦も公を奏(そう)し、この戦ではランカスター側で先陣を切っていたオーウェン・チューダーは捕らえられ、斬首されたのだ。
彼の頭は広場の十字架に置かれ、彼の周りには100個のろうそくが立てられる。
ヘンリー5世亡き後、王妃キャサリンに心から愛され、王妃やヘンリー6世を含む、その子供達を支え、例え正式ではなくても夫と認められていたオーウェン・チューダーのこれが最期だった。
なんとヨーク家は勝ったのだ。
ランカスター側からは、若造と見なされ馬鹿にされていたエドワードは、初のヨーク公当主としての戦いで、若干18歳でありながら、見事勝利者となったのである。
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