【第1章】その14✤ベギンホフとは
ベアトリスと2人の少女が辿り着いたメッヘレン(仏語“Malines“マリーヌ)と呼ばれている)という街は、ブリュッセルから北へ25km、アントワ-プから南へ24kmくらいに位置している。この大きな2つの街のちょうど真ん中当たりに位置しており、更に西へ60km行くとゲントが、東南方向へ25km程行くとル-ヴァンで、昔から歴史的にも由緒正しい重要な街だった。
マルクト広場近くにある、13世紀には既に建設が始まった聖ロンバウツ大聖堂が完成したのは1312年のこと---2つのカリヨンを備えた97mを超える高さの塔は、現在ではベルギーとフランスの56の鐘楼と教会の塔の、ユネスコ世界遺産としても有名だ。
しかしながらこの塔が最初に計画された時は167mという高い塔の予定だったということで、途中宗教戦争などで経済的に難しくなり、その当初の予定は果たせぬまま1520年に97,28mで完成する。1880年に完成したケルンの大聖堂が157mでその当時世界で一番高い教会だったことを考えると、このメッヘレンの最初の計画---しかも13世紀頃という昔に、これがどれほど壮大な計画だったかわかるだろう。
有名な人物で言えばフランス王ルイ15世(マリー・アントワネットの夫・ルイ16世の祖父)やナポレオンなども、この塔を登ったらしい。
そしてこのメッヘレンにも大きいベギンホフがあったのだが、フランダースのベギンホフは、もともと十字軍の時代---13世紀頃に建てられた。エルサレムに向かう途中、またはエルサレムからの撤退中にたくさんの男性が命を落としたため、未亡人や結婚できない若い女性が増えてしまった。
当時女性が結婚せず、一人で生きていくことは禁じられていたため、女性は結婚するか、あるいは修道院に入るしか生きていく道はなかったのだが、ほとんどの修道院は裕福な女性と貴族の女性だけを受け入れていた。
では貴族でもなく、貧しい女性は一人でどうやって生きていけば良いというのか……これがベギン会が生まれた理由だった。この自分たちをベギンと呼んでいた未亡人や独身女性達はなんと自給自足の生活をし、生計を立てていたのだ。
ほとんどのベギンホフには、パン屋、醸造所、病院、教会、牧草地があったので、畑を耕せばなんとか食料には困らなかったのである。また技術を持って働きにいくこともできたので、働いたお金で食料を購入することも可能だった。
そしてこれが一番革新的とも言えることなのだが、ベギン会においては、ベギンホフで暮らす女性達は修道女の誓いを立てる必要がなく、希望があればベギン会から出て行くこともできるということが、修道院とは大きく違う点だった。
中世の時代にこれほど進歩的な考え方が許されたというのが、本当に驚きである。
また例えばベギン会において裕福な女性はベギンホフで家を購入したり、自分で家を建てたりすることもできた。一方裕福でない女性達は裕福な彼女達から小さな部屋を借りて家事などの労働をしていた。お互いに助け合いながら身を寄せ合い共同生活をしていたのだ。
そして17世紀には、フランダース地方のベギン達にとって主にレース作りが主な収入源となる。したがって、メッヘレンはじめ、当時この、現在のベルギーのあらゆる街にあったこのベギンホフは、市の経済においても主要な役割を果たすことになる。
中世に女性が娼婦や物乞いとしてではなく、一人で自立して生きていくことができるという社会体系が既にあったことに、驚かされる。
自分で働いて生きていくことが許され、そしてそれが可能だった彼女達は、当時の世界中のどこの国の女性達よりはるかに幸せだったと言えるのではないだろうか。
そのように考えると、ベギンホフで小さな家を購入することができたベアトリスにとっては、その時の彼女達の状況の中では最良の選択だったとも言えるだろう。
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またベルギーに近いドイツ在住の地の利を生かして、InstagramやTwitterではマリー・ド・ブルゴーニュのゆかりの地ベルギーのブルージュで見かけた、マリー姫に関連するものをご紹介していきます。
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