【第1章】その5✤マリ-姫---誕生の記録3
マリー誕生の4日後の1457年の2月17日は霜が降りるほど寒かったのだが、生まれてすぐに亡くなってしまうことも多かったこの時代、ヨ-ロッパのキリスト教国では赤ん坊は生まれたその日、あるいは遅くとも数日中に洗礼を受ける必要があった。当時キリスト教では死ぬ前にキリスト教徒になっていなければ、決して死後に天国へ行くことは出来ないと堅く信じられていたからだ。
祖父のフィリップ善良公は洗礼式にも来ないままだったので、その時の代父母はシャルルの母イザベル・ド・ポルトガルと、そしてシャルルの最初の妻カトリーヌの兄でもあったフランス王太子のルイ(あとにブルゴーニュ家の宿敵となる蜘蛛王ルイ11世)で、マリーという名前はこのルイの母マリー・ダンジュー(フランス王シャルル7世の王妃)からつけられることになる。
将来、父シャルル突進公や本人であるマリー、そして後にはマリーの夫であるハプスブルグ家のマクシミリアン1世やその孫のスペイン・ハプスブルグ家カール5世の天敵となったフランス王家の---その中でも後に蜘蛛王(しかも正確には「遍在する蜘蛛」“仏語 : l'universelle araigne” と言われ嫌われていた)という厭らしいあだ名の付いた皇太子ルイ(後のルイ11世)がマリーの代父になったということは、どう考えてもマリーの人生の中では最大に皮肉な出来事だったとしか言いようがない。
その当時、父王であるフランス王シャルル7世(注1)と関係が良くなかった皇太子ルイは、親族(注2)であり、また父シャルル7世の敵でもあったフィリップ善良公の庇護を求め、ここブルゴーニュ公国に滞在していて、マリ-が生まれた頃はちょうど、マリーの父シャルル突進公と仲良く狩りなどを楽しんでいたのだ。
ところで、シャルル突進公の父フィリップ善良公とイザベル・ド・ブルボンの母アニエスは兄と妹ということで、シャルル突進公とイザベル・ド・ブルボンの2人は従兄妹にあたるのだが、その一方、シャルルの母方はポルトガル王室の血を引いている。
シャルルの母であるイザベル・ド・ポルトガルはポルトガルの歴史上有名なジョアン大王(注3)の娘なのだが、マリーの母イザベルはシャルル突進公の鍛え抜かれた体型や、ポルトガル人の母親から受け継いだ黒髪も気に入っていたし、一方イザベルは非常に美しく、優美で個性的な女性であり、彼女は皆から尊敬される存在であり、そんなイザベルのことをシャルルは愛していたので、仲の良い夫婦であったのだ。
そんな両親の元マリーは幸せな幼少期を過ごしていた。
(注1)
このシャルル7世とは、フィリップ善良公の父ジャン無怖公(むいこう)を暗殺してブルゴーニュ公国を敵に回してしまい、本来であれば百年戦争(1337年から1453年)を終えることができるはずだった、その転機を逃した人物として有名だが、ジャンヌ・ダルクを見殺しにした王としても有名。
(注2)
ヴァロア朝フランス王家
シャルル5世→シャルル6世→シャルル7世→ルイ11世→シャルル8世
ヴァロア朝ブルゴーニュ公家
フィリップ豪胆公→ジャン無怖公(むいこう)→フィリップ善良公→シャルル突進公→マリー姫
シャルル5世とフィリップ豪胆公は、父はヴァロア家フランス王ジャン2世と母はボンヌ・ド・リュクサンブールを両親に持つ兄弟。
つまりルイ11世の祖父シャルル6世と、マリーの父シャルル突進公の祖父ジャン無怖公(むいこう)は従兄弟にあたり、もともとは全員親戚同士。
(注3)
ポルトガルの全盛期の基礎を築き上げたことで「大王」と呼ばれている。
ジョアン大王の息子のエンリケ航海王子も有名で、マリ-の祖母イザベル・ド・ポルトガルのすぐ上の兄。
シャルル突進公にとっては伯父に当たる人物で、シャルルの勇敢さ、あるいは無謀さはこのエンリケ航海王子から受け継いだのかもしれない。
シャルル突進公は別名“無鉄砲公”とも呼ばれている。
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こちら主な参考文献になります。
「Maria von Burgund」 Carl Vossen 著 (ISBN 3-512-00636-1)
「Marie de Bourgogne」 Georges-Henri Dumont著 (ISBN 978-2-213-01197-4)
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