【番外編】《塔の王子達を殺したのは誰なのか》その1

 王宮として使用されていたロンドン塔は、確かに高貴な身分の者を閉じ込める、特別な「牢獄」としても使われていましたが、リチャードが甥2人をそこへ連れて行った時は幽閉の目的か、保護の目的だったのかは今となっては不明です。


 しかしシェークスピアはリチャード3世によって、そこに閉じ込められ、そのまま行方がわからくなったエドワード4世の息子(当時12歳と9歳)エドワード5世とその弟ヨーク公リチャード---そしてその2人を殺すように指示を出したのが、叔父であるのに血も涙もないリチャード3世であると、シェークスピアは「リチャード3世」の戯曲において、そう描いています。


 しかしこれを全く鵜呑みにしてしまった良いのでしょうか。

前回も書いた通り、シェークスピアがリチャード3世に関して書いていることは、根も葉もない出鱈目もたくさんあるのです。いくつか検証してみましょう。



1.「リチャードはカエルのような醜いせむし男だった」という説


 これは2012年にレスターの建設工事中の駐車場でリチャードの骨が発見され調査された結果、英国の”リチャード3世協会”会長フィル・ストーン氏は、彼らは「せむしの王リチャード」はシェークスピアによる「完全な創作」であることを示唆していると述べました。 分析の結果、彼は「曲がった背骨」を持ってはいましたが、それは服で隠せるほどのものであり、また私のスコットランド出身の友人は、彼は剣の稽古のし過ぎで、片方の肩だけが大きくなったのだという話を聞いたことがあると言っていました。

 また2013年にはリチャード3世の顔や声も復元できたそうで、それを見る限り決して「醜い」容姿でもなく、”リチャード3世協会”は非常に喜んだそうです。

 彼の復元された写真を見て下さい。彼は自分の容姿を嘆き、兄達を妬まなければならないほどに醜い男性だったと思われますか?



2.ウォリック伯領を独り占めにするため、兄クラレンス公ジョージを殺したという説


 こちらは前回にも書きましたが、ジョージは1477年にも

「エドワード4世は父ヨーク公リチャードの嫡子ではなく、母セシリー・ネビィルが他の男との間に作った庶子である」という噂をぶり返したのでした。これにはさすがのエドワード4世も許すわけにはいかぬ、と思ったとしても不思議ではありませんよね。

このジョージを許すまじ、と思ったのは母セシリーも同様だったのではないかと思いますが、一説では彼女自身もこの説をいずれかの際に認めたことがあるようです。

それが、1470年に彼女の甥ウォリックが最初に言い出した時なのか、この1477年の時なのか、あるいは1485年に末の息子リチャード3世がそう言い出した時かは定かではありません。しかし他の兄弟達とよく似ていたエドワード4世が嫡子ではないと言うことが本当であれば、その兄弟達(父ヨーク公リチャードによく似ていたリチャード3世は除く)も皆ヨーク公リチャードの子供ではなかったと言うことになり、これは非常に無理のある話だと思わずにいられません。



3.ウォリック伯領を手に入れるために、ウォリック伯の娘アンと結婚し、邪魔になると彼女を殺害したという説


 実はウォリック伯の次女アンは最初ヘンリー6世とマーガレット元王妃の息子エドワード元皇太子と結婚していました。エドワードが16歳、アンが14歳の時でしたが、その翌年1471年にエドワードは戦士してしまい、頼みの綱である父ウォリック伯もその数週間前に既に戦死していました。その後、姉のイザベルの元に身を寄せていましたが、イザベルの夫クラレンス公ジョージに家を追い出され、修道院に身を寄せていたのではないかと言われています。1472年の春にリチャードは彼女を見つけ、7月に結婚するのですが、ジョージ・リチャード兄弟とイザベル・アン姉妹は又従兄弟という関係でした。当時の貴族の子供達は親戚同士まとまって育てられていたこともあり、昔からよく知っている幼馴染でもありました。


 リチャード3世は本当に財産目当てだけで彼女と結婚したのでしょうか? リチャードはおさげ頭の幼い時代の愛らしいアンのことをずっと好きだったということはないのでしょうか。           


 後にアンは自分にとってもリチャードにとっても姪と甥にあたるマーガレットとエドワードを引き取って育てていました。この子供達の両親はリチャード3世の兄クラレンス公ジョージと彼女の姉のイザベルだったからです。

 ジョージは反逆罪で処刑され、イザベルもその前に亡くなってしまっています。


 もしもクラレンス公ジョージを酒樽の中で暗殺させたり、アンを財産が目的だけで結婚したリチャードなら、自分が殺した兄の幼い子供達を世話することをアンに許すものなのでしょうか。

 

 シェークスピアの「リチャード3世」を読む限りでは血も涙もないほどに残虐で、自分の欲のために次から次に親族を殺す、まるでサイコキラーのような醜いせむし男と、史実の片端から垣間見ることのできる”リチャード3世”は同じ人物とはどうしても思えないのです。


 そして次回は最後4つ目の最大の謎「塔の中の王子達を殺したのはリチャード3世という説」について、この数週間調べたことを書きたいと思います。

                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                  



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