第16話 おいしい


「少し早いですけど、そろそろ夕飯の準備をしますね」

「何か手伝う事あるかな?」

と聞いてみたが、

「睦月さんは座っていてください。大丈夫ですから」

「いや、そういうわけには」

「それじゃあ、睦月さんはこの鍋が沸いたらこれを入れてください」

「わかった」


俺は料理できないことはない。

以前、簡単なご飯を何度か作ったことがあるので、できないことはないがほとんどこの部屋のキッチンを料理にために使うことはなかったので、変な感じだ。

俺がお湯が沸くのを待っている横では、依織が料理をすすめていく。

今までほとんど使用された事のないせいでピカピカのキッチンに依織が立って料理を作ってくれている。

これは夢じゃ無いんだろうかと思ってしまう。

女の子が俺にご飯を作ってくれているだけでも奇跡的なのにその相手が俺の想い人である依織だとは、全く現実感が無い。

俺の妄想でしか無いが、依織の若妻感が堪らなく可愛い。

それにしても、横で見ていると依織の手際がすごくいい。

依織は本当に手慣れた手つきで料理を仕上げていく。


「睦月さんそろそろです」

「うん」


依織に気を取られていたので具材を入れるのを忘れていた。

俺は沸いたらお湯に具材を入れる。


「それじゃあ、少しそのままで、具が煮えたら味噌をこれだけ入れてくださいね」


どうやら、俺の作っているのは味噌汁だったらしい。

味噌汁か。基本カップラーメンを食べる時には、カップラーメンが汁物を兼ねているので味噌汁を飲むことはない。

俺が最後に味噌汁を飲んだのはいつだっただろう。

たぶんこの半年は飲んでいないと思う。


「睦月さんご飯ができましたよ。今日は初日なので簡単なものですいません。明日からはもっとちゃんと作り


ますね。でも睦月さんが手伝ってくれたので思ったより早くできました」

これで簡単なもの?

ご飯に、豚の生姜焼きとキャベツのみじん切り。味噌汁と納豆がテーブルの上に並べられている。

いつもカップ麺の一品かサラダを加えた二品の俺の食卓が五品も並んでいる。

完全にこの部屋の食卓新記録だ。

それに手伝ったと言っても俺がしたのは、具材を入れたことぐらいなので、ほぼ依織が一人で作ってくれたようなものだ。


「それじゃあ、いただきます」


依織の手際を考えると、不味いとは思えないが、もう、不味くても生煮えでも構わない。これを食べられるだけで俺は本望だと思いながら豚の生姜焼きに箸をのばして口に運ぶ。

こ、これはっ!

この濃厚なタレの味わいと生姜の風味が鼻に抜ける豚肉との絶妙なマッチング。

なんだこの美味しさは………

弁当でもたまにしょうが焼き弁当を食べる事もあるが全く比較にならない。

うますぎる………


「うまい……」

「本当ですか? よかった。お口に合うか心配だったんです」

なぜか不安そうに見えていた依織に顔が遠慮がちに笑顔になった。

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