第50話 記憶のかけら
「そういえば、記憶が戻ったわけじゃないんですけど、あの落ちた時になにかを買いに向かっていたような気がするんです」
「え?」
落ちた時って、歩道橋から落ちた時のこと? 記憶が戻った? いやでも、戻ったわけじゃないって言ったし、どういう事だ?
「今日水族館で睦月さんに助けてもらったじゃないですか。その時は助けてもらって嬉しい気持ちだけだったんですけど、ここに帰ってくる途中でなんとなく、今日ではないシーンのイメージも思い浮かんで」
「それって……」
「自分でもはっきりしないんですけど、最初に睦月さんに助けてもらった時の事なのかなって。それとそのイメージと一緒になにか買い物しなきゃっていう想いも湧いてきたんです」
「他にはなにか思い出したことってある?」
「いえ、それだけなんです。すいません」
「謝ることなんか何もないよ」
同じようなシチュエーションを体験したことで、あの時の記憶が少し戻りかけているのか?
それなら、なにかのきっかけでいろんな記憶が戻ってくるかもしれない。
明日からも家にいるより、依織の為には積極的に外へ出た方がいい気がする。
この日は、ベッドに入ってから明日からの予定を考えていると、普段の緊張状態から寝不足がピークにきていたこともあり、いつのまにか意識がなくなっていた。
「あ……もう朝か」
「睦月さんおはようございます。お疲れみたいだったので、ゆっくり眠れたみたいでよかったです」
「ゆっくり? 今何時?」
「今は十時三十五分です」
もう十時を過ぎてるのか。ちょっと寝過ぎた。
せっかくどこかに行こうと思っていたのに、これからだと準備しても、お昼からになってしまう。
「起こしてくれればよかったのに」
「睦月さんが気持ち良さそうに眠っていたので、そのままがいいかなと思って」
たしかにいつもより寝起きがスッキリしている感じはあるな。
「依織は何時に起きたの?」
「わたしは六時三十分ぐらいです」
「依織ももう少しゆっくり眠ればよかったのに」
「いえ、わたしは睦月さんの寝顔もゆっくり見れましたしよかったです」
「そう……」
俺の寝顔を見ても意味は無いと思うけど、依織が起きてから四時間か。
俺の寝顔を見られていたと思うとなんとなく気恥ずかしい。
「昨日、水族館にも行けましたし、今日は部屋でゆっくりすごしませんか?」
「依織が、それでいいなら俺はもちろんいいけど」
寝過ごした俺に気を使ってくれたのかもしれないが、依織が部屋でゆっくり過ごそうと言ってくれたので、遅めの朝ごはんを二人で食べて、ゴロゴロする。
俺も結構慣れてきたのかな。
一緒に寝るのはまだまだ厳しいけど、こうやって一緒に過ごすのはそこまで緊張しなくなってきている自分がいる。
最初は一緒にいるだけでも、依織のことが気になってしまい落ち着かなかったが、今はそういう感じはほどんどない。
むしろ、依織がいない方が落ち着かない気さえしてしまうので不思議だ。
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