第33話 お地蔵さんは天使


「う〜ん、お地蔵さんが……」


お地蔵さんにのられて身動きが取れない。

どうにかお地蔵さんから逃れようとしてもがいてみるが、がっちりとホールドされているのか身体が動かない。

だけどなんでお地蔵さんが俺の上に乗ってるんだ。

俺が売れ残った笠をあげなかったから怒ってるのか?

俺にも生活があるんだ、許して欲しい。


「助けてお地蔵さん……」


お地蔵さんは俺の望みを無視するかの如く全く離れてくれない。


「あ……」


俺の意思はそこで覚醒した。


「あれ……お地蔵さんじゃない。天使?」


目を開くとそこには天使の寝顔があった。距離はほぼゼロ距離だ。


「〜〜〜〜〜!」


一瞬で眠気が吹き飛んで、心臓が跳ねる。天使じゃない。依織だ。目の前にある寝顔は依織だ。

なんで依織の顔がここに。

それより近い! 近すぎる! どうにか距離を取ろうとするが、身体が動かない。

この状況で冷静になることなどできるはずもないが、今の状況を確認する。

俺の身体が自由に動かないのは依織が俺の身体を抱き枕のようにして抱きしめているからだ。

お地蔵さんじゃなかった。

だけどこの状況、どうすればいいんだ。

普通に考えて、ご褒美……いや依織は寝ていて意識がない。それを黙って享受するのは……

だけど、少しぐらいは……

罪悪感は少しあるが、この距離で依織の顔をみる機会はそうそうないので、そのままの状態を続ける。

「本当に天使みたいだな」

間近でみる依織の寝顔は、本当に綺麗だった。透明感のある白い肌に、あどけなさが残るその寝顔。普通に天使だと言われても信じてしまいそうになる程にかわいい。

それにしても依織は寝相が悪いのか? 昨日も同じようなことがあったし。

思わず見惚れてしまいそうになるその寝顔をしばらく眺めていたが、これ以上はさすがに悪い。それに俺の心臓もこれ以上は持たない。

百メートルを全力で走ったのかと思うほどの速さで拍動している。

だけど、このゼロ距離で目が覚めたらお互いに気まずいかもしれないので、どうにか距離を取ろうともがいてみる。


「くっ……」


もがいてみるが、全く動くことが出来ない。

俺がもがいて抜けだそうとすると、ぎゅっと力が入りホールドが解けない。

依織の細腕のどこにそんな力があるのかと、不思議に思ってしまうが、抜け出すことが出来ない。


「ん……くまさん、ダメ」


寝言か。一瞬依織が起きたのかと思ったが違うみたいだ。

もしかして、俺のことくまと勘違いしてるのか? いや普通に考えてくまに抱きつくシチュエーションはないから、大きなくまのぬいぐるみとかと勘違いしてるのかもしれない。

俺は再び抜け出そうともがいてみるが、ギュウッと依織に抱きしめられて全く身動きが取れない。

今が朝なのは間違いないが、スマホを取ることもできないので時間を確かめることもできない。

ほぼ手詰まりとなった俺は、依織が自然と話してくれるのを期待してしばらくそのままでいることにしたが、とにかく近い。

さっきまでは、全く余裕がなかったが、諦めてしまえば心に余裕ができたのか、俺の中の煩悩が活動し始めてしまった。

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