第32話 我輩は石である
「睦月さん、ご飯ですよ。どうしたんですか? 怖い顔してます」
「えっ? そう。ちょっと考え事してた。ごめんごめん」
「そうですか。何か悩み事とか有れば相談にのりますよ?」
「ああ、大丈夫。ありがとう」
どうやら表情に出ていたようなので、依織といる時には気をつけないといけないな。余計な心配をかけてしまいそうだ。
その後、昨日と同じ様にご飯を食べたが、今日のご飯はハンバーグだった。肉汁がたっぷりで弁当のハンバーグとは比較にならない美味しさだった。
俺の中では買ってきた弁当に入っているハンバーグでも、かなりの美味しさだと思っていたが、依織の作ってくれたハンバーグは一線を画す美味しさだ。
冗談抜きでやばい。
「依織、このハンバーグ美味しい」
「ありがとうございます」
「家庭の味とお店の味の両方の良いとこ取りみたいで、最高に美味しい」
「はい……」
「ご飯がすすむな〜。白米ってこんなにおいしかったんだな。やっぱり依織のご飯のおかげだよ」
「睦月さん、褒めすぎです」
「いや、本当のことだから」
「わかりましたから」
依織は自分の料理の腕をわかってないのかもしれない。
ほんの数日で依織の作ってくれるご飯に胃袋を完全に鷲掴みにされてしまった。
落差がありすぎて近い将来に戻るであろうカップ麺生活が不安になってしまう。
それにしても依織のご飯はどれも本当に美味しい。このままだと食べ過ぎで太ってしまいそうな気がする。
ご飯を食べてからは昨日と同じ様にお風呂に入ってTVを見てから二人で散歩をしてから部屋に戻って就寝した。
お風呂は昨日と同じように先に入らせてもらったのでリラックスして入ることができた。ただやはり依織がお風呂に入っている時間は、修行だった。
全く慣れない。正直何日経ったとしても慣れる気が全くしない。
そして一緒に寝る様になって今日で三日目だが、こちらも一向に慣れる気配は無く、俺に耐性がつく気配も無い。
依織は安心しきっているのか、なぜかすぐに眠る事ができている様だが、俺は目が冴えて眠れない。依織が少し動くたびに触れてしまうんじゃ無いかとビクビクしてしまうが、ひたすら瞑想を繰り返す。このままいくと近い将来、夢の境地、悟りを開いてしまうんじゃ無いかと本気で思ってしまう。
ただこの三日間瞑想をして気がついたことがある。
無を意識しすぎるとダメだ。
無を意識すると、自ずと他の感覚が敏感になる。
耳から聞こえる音や、気配が普段よりもはっきりと聞こえてしまう。
ただでさえ気になって仕方がないのに、より一層依織の息遣いや気配が読み取れてしまい、眠るどころではなくなってしまう。
やはり無ではなく、俺は石だ。道端に落ちている石。イメージするのは石。
硬く、愚鈍な石。何にも動じ無い、無機質な石。
結局、なにも感じることのない石になり切ることは出来なかったが、昨日同様に数時間後精神力の限界を迎え、意識を手放し眠りについた。
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