第13話 彼女とお買い物

「病院でも言いましたが、夕食から私がご飯を作らせていただきますね」

「はい……。それは毎日晩ご飯を作るってくれると言う事ですか?」

「睦月さん、朝ごはんはいつもどうされているのでしょうか?」

「朝は食べてません」

「そうですか……昼はどうでしょうか?」

「学校は購買のパンを食べてるけど休みの日はカップ麺を……」

「わかりました。今日から朝昼晩の三食とも毎日作りますね」

「え? 三食? 大変じゃ無い? 学校は?」

「大丈夫です。学校にはお弁当を作りますね。睦月さんこのままだと死んでしまいますよ。カップ麺の食べ過ぎです。今後睦月さんの身体は私の作るご飯で満たします」

依織が三食作ってくれるのか? そんな事があっていいのだろうか?

正直カップ麺には随分前から飽きていた。だけど俺にはカップ麺しか無かったので味のローテーションとお弁当で紛らわせていた。

それが三食依織の作ったご飯を食べれるのか?

この天使の作ったご飯なら例え生焼けでも美味しいに違いない。

食べたら幸せで本当に死んだりしないよな。俺大丈夫だよね。

「それでは冷蔵庫を拝見しますね」

そう言って依織が俺の冷蔵庫の扉を開いた。

「…………何もありません」

「うん、ごめん」

冷蔵庫には炭酸ジュースのペットボトルが一本入っているのみで、食材に使えるものは一切入っていなかった。

「もしよかったら今からお買い物に行きませんか?」

「そうだね。そうしようか」

冷蔵庫の中はこれがデフォルトだが、当然これではご飯を作ることはできないので、依織と一緒に近所のスーパーに買い出しに来る事になった。

「コンビニでいい?」

「できればもう少し色々揃えられるところがいいです。調味料とかもないので」

「じゃあ、少し離れてるけどスーパーに行こうか」

「はい」

コンビニでは賄いきれないようなので、歩いて十分ほどのところにスーパーマーケットがあるので、そこまで歩いていくことにする。

「ここなんだけど」

「それじゃあ、必要なものを買っていきますね。睦月さんが食べたいものとかありますか?」

「病院のご飯の味が薄目だったから少し濃いめの食べ物が食べたいかな」

「わかりました。それとなにか睦月さんが買いたいものがあったら言ってくださいね」

「わかった」

俺の持つカゴに依織が食材を選んで入れて行く。

高校での記憶はないはずだが、結構手際良く選んでいるように見えるので、中学生に時に結構料理していたんだろう。

それにしても依織とスーパーでお買い物。

数日前には想像すらしなかった事だが、依織と二人でお買い物というこの状況でずっと心臓のドキドキが止まらない。

女の子とデートをしたこともないのにいきなり、スーパーで依織と買い物。

鉄棒の逆上がりができないのにいきなり大車輪を披露しているような感覚だ。

スーパーでお買い物をしている姿はまるでカップルというか新婚さんみたいだ。

依織の状況を考えるとそんな浮ついた事ではダメなのは頭で分かっているのに、俺の馬鹿な心と身体が喜びと幸せを感じてしまっている。

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