第14話 跳ねる心臓

睦月さん、睦月さんは左腕が使えないのですから私が持ちます」

「いや、このぐらいは俺にさせてくれ。右手は大丈夫だしご飯を作ってくれるだけで有難いから、頼むよ」

「そうですか。じゃあお願いしますね」

「ああ、そうしてくれ」

食材だけではなく、俺の家には調味料もほとんどなかったので、一式揃えていくと買い物カゴが結構な重量になってしまった。

やっぱり俺が持つことにしてよかった。これは女の子には結構厳しいと思う。

「睦月さん、それはなんですか?」

「いや、カップ麺。もうストックが無いから」

「カップ麺は禁止って言いましたよね」

「いや、だけどこれは俺の主食だから」

「ダメです。わたしが作るのでこれは返してきてください」

今日のでストックが尽きてしまったので、買っておきたかったんだけど、どうやら本当にカップ麺は禁止されてしまったらしい。

高校に入ってからカップ麺のストックが尽きたことはなかったので妙に不安になってしまうが、依織が許してくれそうな感じはしないので諦めることにした。

一通り買い物を終えて支払いをしようとすると、依織に止められてしまった。

「睦月さん、ダメです。支払いはわたしがします」

「いや、でも」

「睦月さんには、これからお世話になるんです。これくらいはさせてください」

「だけど」

「睦月さん、次の方の邪魔になりますよ」

「ああ、じゃあ」


食費は全部依織が出すと言って聞かなかった。

俺としては男の見栄みたいなものもあって自分で全部払いたかったのだが、一緒に住ませてもらうのだからせめて食費ぐらいは出させて欲しいと依織から真剣な顔で頼まれると断る事が出来なかった。

支払いを終えて、袋に買ったものを詰めている時に、せめて半分出させて欲しいとお願いしてどうにか了承してもらった。

依織に家事を全部やってもらって食費まで全部出してもらうと俺はダメ人間になってしまいそうで怖い。

依織は俺に気を使っているのだと思うが、この調子で今後大丈夫だろうか? 同棲いや同居初日にして心配になってしまう。

家に帰って、買ったものを冷蔵庫に仕舞いってから、夕食まではまだ時間があったので、部屋の片付けをしてしばらくゆっくりすることにした。


「依織は結構料理してたんだ」

「はい、ママが教えてくれて、よく一緒に作ったりしていました。あまり人に振る舞ったことはないんですけど、睦月さんのために頑張って作りますね」


その言葉を聞いて俺の心臓が跳ねた。

依織が俺のために、頑張ってご飯を作ってくれる。

そんな夢のような言葉にほっぺたをつねりそうになるが、変な人だと思われそうなのでやめておいた。

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