第28話 彼女の寝言
「ちょっと早いけど、そろそろ寝る?」
「はい」
今日も床で寝ることを主張してみたが、結局依織に押し切られて一緒のベッドに寝る事になってしまった。
寝るのは二人でベッドは一台。
だから一台のベッドで寝るのは二人。
そう、だから問題ない……
俺は深く考えることを諦めてベッドに入る。
「お休みなさい」
「うん、お休み」
依織にはお休みと言ったものの俺は全く休まらない。
無だ! 俺は無! 俺は石だ! 俺は石!
入浴の時と同じく、即精神修行に入り一時間が経過した。
未熟な俺はどうしても石になり切る事はできず時間だけが過ぎていく。
ただその1秒が永遠に感じるほどに長い。
寝返りをうったら触れてしまう距離に依織がいるし、背中越しでも依織の息遣いを感じてしまう。
昨日は疲れから意識を手放してしまったので、あっさり寝ることができたが、今日は全く眠れない。
目が冴えて眠れる気が全くしない。
羊が1匹、羊が2匹、羊が3匹……
羊を数えても、寝るまでには頭の中で一万匹ぐらいの大牧場ができてしまいそうなので三百匹を超えたところで諦めたが三百匹でも既にそれなりの牧場がいっぱいになっていた。
もう俺にできる事はない。あとはひたすら意識を失うのを待つしかない。
俺が今の状況に悶えていると、背後から依織の寝言が聞こえてきた。
「う、うぅ〜ん。ママ………。助けて…………。助けて……」
隣から依織の寝言が聞こえて来て、俺の頭は一気に冷えて俺の溢れる煩悩は瞬時に消え去った。
起きている時の依織は至って冷静で普通に見える。
いや正確には普通に見えるように振る舞っているのだろう。
他人である俺と生活する事に負担を感じないはずも無い。
記憶の無い自分に不安を覚えないはずがない。
高校に行っても記憶が戻らなかった事に何も思わないはずが無い。
俺はなんで馬鹿なんだ。
依織を守ると決めたが依織との生活に舞い上がってはいなかっただろうか?
今日だって、依織のためにもっと出来る事もあったんじゃないのか?
依織の事をもっと考えてあげる事も出来たんじゃないだろうか?
彼氏としてもっと支える事があったんじゃないか?
俺の覚悟はペラペラだ。
彼氏役をすると決めた以上、この役を演じ切る覚悟が足りなかったかも知れない。
女性慣れしてない事は今更どうしようもないので、依織の望む通りの彼氏役を演じる事は難しいかもしれないが明日からはもっと依織の事を考えて行動したいと思う。
煩悩が消え去った俺は、意識を手放し眠りについた。
お知らせ
HJ文庫モブから始まる探索英雄譚4が本日発売です。書店の新刊コーナーで探してみてください。地域によっては明日以降に並びます。
よろしくお願いします。
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