第19話 眠れない

「お風呂大丈夫でしたか?」

「え!? な、なにが?」

「睦月さん腕を使えないのでお風呂に入るのに不便は無かったですか?」

「あ、ああ、あ〜大丈夫、右手でなんとかなったから」

「そうですか……どうしても無理なら言ってくださいね」


どう言う意味だ? 依織にどうしても無理だと言うとどうなるんだ?

まさかな…………

いや、無いな。

妄想もここまで来るとヤバイな。気をつけないと俺の脳が暴走しそうで自分が怖い……

その後しばらくTVを依織と一緒に見たが、内容はほとんどおぼえていない。

隣にいる依織との距離が思いの外近くて気になってTVに集中が全く出来なかった。

結構いい時間だな。そろそろ寝る時間だけど………

そこで初めて俺は重大な事に気がついてしまった。

俺の部屋には布団がベッドの分しかない………

色々な事が有り過ぎて完全にそこまで頭が回って無かった。

やばい……

どうする? 当然ベッドは依織に使ってもらうとして俺は床に寝るしかないな。

季節外れだが冬用に毛布が一枚あるのでフローリングの上に敷いてくるまって寝ればなんとかなるか。


「い、依織、今日は疲れただろうから、そろそろ寝る?」

「はい。そうしましょうか」

「じゃあ、依織がそのベッドを使ってよ」

「え? 睦月さんはどこで寝るのですか?」

「ああ、俺は毛布があるから床に寝るよ」

「睦月さん、私が床で寝ます。置いていただいている身でベッドは使えません」

「いやいや、床では寝させられないよ」

「でも、睦月さんが……」

「ああ、俺普段から寝落ちして床でよく寝てるから問題ないから」

「ですが……」

「はい、決まりね。それじゃあ寝よう」


依織は申し訳無さそうにしていたが、間違っても依織を毛布一枚で床に寝かすことなど出来ない。

依織にはああ言ったが、俺ですら床に毛布一枚で寝た事などない。

普通に考えて布団なしでフローリングは寝るには固すぎる。


「それじゃあ、おやすみ」

「はい、おやすみなさい」


渋る依織をベッドに寝かせて電気を消して俺も寝る事にしたが、電気を消してしまうと、静寂が重い。

微かに依織の呼吸が聞こえるが、やばい………

いつも一人で寝ていたので静寂に離れているはずなのに、依織の呼吸が聞こえるだけで過剰に二人で寝ている事を意識させられてしまう。

勿論何かしようという気など皆無だが、二人で寝るということがこれほどの緊張感をもたらすとは思わなかった。

これは経験者にしか分かるはずのない緊張感だ。

しかも依織の事が気になって、動いて変な音を立てないよう意識してしまい身動きが取れない。

この状態かなり苦しい……

しかも予想通りフローリングが硬いので明日は身体が痛くなりそうだ。

異様な緊張感の中息を殺すように眠ろうと努力してみるが、全く眠れない。

スマホを見ると依織に迷惑がかかるので確認は出来ないが、すでに1時間ぐらいは経過したんじゃないだろうか?

朝まであと何時間だろうか………


「睦月さん………」


眠れずにいると依織が俺の名前を呼んだので返事をする。


「どうかした?」

「睦月さん、やっぱり床じゃ眠れないんじゃないですか?」

「い、いや、そんなことないよ」

「眠れないんですよね」

「い、いや、まあ」

「やっぱりそうですよね。私変わりますね」

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