第18話 お風呂は修行

『チャポン』


それと同時に入浴している依織の姿まで想像してしまった。

ダメだ。このままでは人としてダメだ。

俺は慌ててTVの電源を入れ、音量を上げて画面に映った番組を見ようとするが、全く内容が頭に入って来ない。

TVの音でかなりの部分がかき消されているが、未だ時々水音が聞こえて来てしまう。

これは天国………いや俺にとっては拷問に近い。

この瞬間に悟りを開くしか無いが………修行をした事の無い俺にこの一瞬で悟りを開く事などできるはずが無かった……

無念………

俺は賢者だ………枯れた賢者だ。世捨て人だ…………無だ………と繰り返し暗示のように思い浮かべるが、僅かな水音に一瞬で打ち消されてしまった。

俺は未熟だ………

俺が精神修行に励んでいる間に蓮がお風呂から出てきた。


「睦月さん、先にお風呂いただきました。睦月さんも入ってくださいね」

「あ、ああ……」

「睦月さんどうかしましたが? なにか疲れているように見えます」

「うん、大丈夫」


本当はものすごく疲れてしまったが、その理由を伝えることもできないので平静を装う。

そして風呂上がりの依織は……想像を超えて可愛かった。

フェミニンな寝間着が抜群に似合っていて、寝間着に包まれていない部分の顔や首は薄い桜色に染まっておりり、何とも言えず………可愛い。

女性の風呂上りなど母親しか記憶にないが、母親の風呂上りなど何も意識した事がなかったので完全にノーマークだった。これはやばい……

頭の中に先程まで聴こえていた入浴の水音がリフレインする。

ドキドキしてこれ以上まともに見る事が出来ない。


「お、おれ、お風呂に入ってくる」


俺は耐え切れなくなってお風呂に逃げ込むように入った。


「ふ〜っ。これはやばい……な……」


この数十分の間に俺の精神力ががガリガリと音を立てて削られている。

そもそも女性とまともに話した事が無い俺にとって依織の一挙手一投足の破壊力が強すぎる。

でも久しぶりのお風呂は気持ちいいな。


「ふ〜。ちょっと落ち着いて来た………」


風呂に浸かったお陰で緊張が解れたのか少し冷静に考える事が出来る様になってきた。

冷静になって考えると、さっきまでこのお風呂には依織が入っていたのか。


「…………つっ!」


危うく大声を出してしまいそうになったが、よく考えるとこのお風呂もまずい。

正直リラックス出来るどころでは無い。

俺は決して変態などでは無く至ってノーマルだ。ノーマルではあるがこの状況で大丈夫な高校二年生がいるのだろうか。

心頭滅却しなけば…………

慣れ親しんでいるはずの我が家のお風呂が、今この時異空間と化してしまっていた。

意識してはいけない。

くつろげるはずの入浴タイムは完全に修行タイムへとかわった。

ひたすら邪念を払って無を意識する。

水辺に浮かぶ落ち葉のイメージ。

お風呂を出る頃には心身ともに疲れきってしまっていた。

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