第48話 バレてる
しばらくマナティを眺めている依織を眺めていると、満足したのか依織が次の水槽へと手を引いてくれた。
「睦月さん、今日はありがとうございました。本当に楽しかったです」
「俺の方こそ楽しかったよ。ありがとう」
水族館を回り終えたので帰路につくが、水族館をこんなに楽しいと思えたのは初めてだ。
依織と一緒だと、風景が違って見える。
いつもはそれほど気にもしないようなことでも、楽しく感じるし一緒に見ていると嬉しくなってしまう。
こんな気持ちは、初めてかもしれない。
以前の依織への気持ち。それは依織への憧れに近い感情だったと思う。
だけど、今のこの気持ちは、その時のものとは明らかに変化してきている。
自分でも驚くほど急速に依織に惹かれ、そして愛おしいと感じることが増えてきている。
外見だけじゃなく、依織という人間に惹かれていっているけど、俺の惹かれているのは中学三年生の依織なんだろうか。
やっぱり高校二年生の依織とは別の存在なんだろうか。
俺自身、中学三年生の時の自分と今の自分では随分と変化している気もする。
色々考えてみても俺にはわからない。だけど、この依織と過ごしている時間はリアルだと思うから、心から楽しみたい。
「睦月さん、決まりましたか?」
「なんの話?」
「お気に入りのお魚です」
「ああ、決まったよ。依織はあのフグ?」
「あのフグと迷ったんですけど、お魚じゃなくてもいいっていわれたのでマナティにします」
「え……マナティ。あれがお気に入りなんだ」
「睦月さんにはマナティのかわいさが伝わらなかったんですね。人魚のモデルだけあって愛嬌があってすごくかわいいです」
「そうなんだ。俺はウミガメかな」
「ウミガメですか?」
「うん、水中を泳いでいる姿が綺麗だし、なんか見てると竜宮城に連れて行ってくれる気がしてくるだろ」
「睦月さんはロマンチストですね」
「そんなんじゃないよ」
ロマンチストなんて言われたのは初めてなのでものすごく照れてしまう。
水族館を出ても手は繋いだままで、電車に乗る時に離したけど駅に着いたら、また自然と手を繋いで部屋まで戻った。
部屋に戻った直後に大地からスマホに連絡が入った。
タイミングが良すぎる。
正直嫌な予感しかしないが、恐る恐る電話に出てみる。
「睦月、今日草薙さんと水族館デートしたのか?」
「なんのことだ」
「水族館で抱き合ってたのか」
また誰かに見られてたのか……
「なんのことだ」
「ランチを食べさせてもらってたのか」
それも見られてたのか……
「なんのことだ」
「ずっと手を繋いでたのか」
いったい、どこまで見てたんだ。まさかストーカー?
「隣のクラスの山坂さんが、今日彼氏と水族館デートしてたんだと。そしたら水族館の通路で抱き合ってるカップルがいて、顔をみて驚いたそうだ。すぐに草薙さんだとわかったみたいでな、慌てて男の顔も確認したそうだ」
「そうなのか」
「じゃあ、どこかで見たことある顔で、よ〜く考えて思い出したら、隣のクラスの高嶺くんだったそうだ」
これはもう完全にバレてる。
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