それでも僕は君が好き きっかけは勘違いと嘘で告白もしていないけど

海翔

第1話 助けた彼女はクラスメイト

高校二年の七月二十六日俺は救急車で病院に搬送された。

夏休みが始まって三日目の昼下がり、うだる様な暑さのその日、俺は家の近くにある歩道橋を登っていた。

目的地であるスーパーに食べ物を買に行こうとして歩道橋を登っていた時だった。


「ギャハハハ〜こっちだよ〜」


俺の少し前方を登っていた女の子に小学生ぐらいの子供が友達と騒ぎながら思いっきりぶつかるのが見えた。


「あっ……」


その瞬間、子供に押された前方の女の子が階段を踏み外して落下するのがスローモーションの様に見え、咄嗟に俺はその子を庇う様に手を伸ばした。

必死にその子の腕を掴んで引き寄せた瞬間、一気に重みが加わり支え切る事が出来ずに俺も階段から落ちてしまった。

地面の支えを失った俺の体は、重力に逆らうことはかなわずにそのまま、女の子と一緒に1番下まで落下してしまった。


「うううううっ………痛い………」


やばい………全身が痛いが、特に左腕に激痛が走る。

これは……多分折れてる。

女の子は?

俺が助けようとして掴んだ女の子は、俺が地面に叩きつけられた拍子に投げ出されて、俺のすぐ横に倒れていた。


「あ………草薙さん………」


受け止めた時には顔が見えていなかったので気が付かなかったが、横に倒れている女の子は、草薙依織。俺のクラスメイトだった。


「きゃあああ〜」


他の通行人が俺達が落下して倒れているのを見て騒ぎ始めたが、身体が痛くて動かない。


「君大丈夫か? すぐに救急車が来るからな」

「あ、ああ……ありがとうございます。横の彼女、草薙さんは大丈夫ですか?」


サラリーマン風の男の人が救急車を呼んでくれた様で声をかけてくれるが、草薙さんの声が全く聞こえてこない。彼女は大丈夫なのか?

身体が動かないせいで、自分では確認出来ないので声をかけてきた男の人に確認してもらう。


「私は医者ではないからよく分からないが、君の彼女は意識を失ってる様だ。呼吸は普通にしている様だから救急車が来るまで無理に動かしたりしない方がいいだろう」

「そう……ですか。ありがとうございます」


どうやら草薙さんは気を失っている様だ。

落ちた時に必死で抱き抱えるように引き寄せたので、地面に叩きつけられた時には、恐らく俺がクッションの役割を果たした筈だ。大事には至っていないと思うが意識が無いとは心配だ。


「彼女もだが、君は大丈夫か?」

「俺は………大丈夫…では無いです。全身痛いですが、特に左腕が滅茶苦茶痛いです」

「そうか、彼女を身を挺して守ったんだからな。なかなかできることじゃ無い。病院でみてもらうしかないけど、きっと彼女も無事だよ」

「そうですね………」


痛い……時間が経つにつれ痛みが増してきた。

体感では結構時間が経過した様な気がするが、実際には数分だと思う。左腕以外の場所も至るところから痛みを感じる。意識がハッキリしているせいで余計に辛い。

ようやくサイレンと共に救急車が2台到着した。


「大丈夫ですか? どこが痛いですか?」

救急隊員の人がストレッチャーを持って俺の横まで来てくれた。


「俺より、彼女を草薙さんをお願いします」

「もちろん彼女も搬送するから安心してください。同じ病院に搬送しますので後で会えます。あなたのお名前は?」

「高嶺睦月です」

「高嶺さん、どこが痛いですか?」

「全身痛いです。特に左腕が痛いです」

「分かりました。それでは直ぐに搬送しますね。少し我慢してくださいね」


俺はそのままストレッチャーに乗せられ救急車の中に運ばれた。

救急車に乗ったのは十七年間の人生で初めての事だったが、痛みで余裕が無かったので初の救急車を楽しむ事は全く出来なかった。

救急車に乗せられると直ぐに病院まで搬送され、手当てを受ける事になった。


「歩道橋から落ちたんですね。すぐにCT撮影しますね」

「あの、一緒に運ばれた》》》》》》》》》》》》》》》》》》》》》》》》》》》》》》》》》》、草薙さんはどうなりましたか? 大丈夫でしょうか?」

「ああ、彼女は一緒にこちらに運ばれてきているので大丈夫ですよ。ただ意識が戻らない様なので高嶺さんと同じくCT検査を受ける事になります。彼女の名前と生年月日はお分かりですか?」

「ああ、はい。彼女の名前は草薙依織です。生年月日は2015年12月24日です」

「助かります。彼女さんの事心配でしょうが、まずは自分の事を考えてください。それではすぐにCT室に運ばせてもらいますね」

「ああ、お願いします」


聞かれたので咄嗟に答えてしまったが、俺は彼女、草薙依織の生年月日を知っていた。別にストーカーな訳ではない。

彼女はクラスの中では一番知られた存在だった。

その類い稀な容姿と学年一位の成績も相まって学校で彼女の事を知らない人間はいないと言っても過言ではない。

そして彼女の誕生日がクリスマスイブという事もあり一年の時には、十二月二四日に十件を超える彼女への告白ラッシュがあり学内ではちょっとした事件として知れ渡っていた。

その為俺も彼女の誕生日を知っていたのだ。

俺は小心者なので告白する事は無かったが、俺も一年の頃から密かに彼女に想いを寄せる一人だ。

CT検査を受け診断の結果、俺は全身打撲に左腕前腕部の複雑骨折で全治三カ月と診断され腕をギプスで固定されて病室に運ばれた。


「全身の打撲があるので安静のため今日から五日間は入院ですね」

「分かりました」

「ご家族の方に連絡をお取りしましょうか?」

「いえ、父の仕事で両親共沖縄に住んでるので連絡は大丈夫です。落ち着いたら自分で連絡します」

「分かりました。それと彼女の草薙さんですが同じ病室となりますので安心してくださいね」

「彼女は大丈夫ですか?」

「検査の結果治療が必要だと思われる所見は見当らなかった様ですが、頭を打ったのかまだ意識が戻ら無いのでしばらく様子見となります。ですが、CTで異常も見つからなかったのですぐに目を覚まされると思いますよ」

「そうですか………」


》》まだ意識が戻らないのか………


あとがき

モブから4発売直前集中連載です。一章部分が書き上がっているので気に入っていただける読者の方が多ければ続きます。

よろしくお願いします。

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