第37話 彼女と映画
「それじゃあ、そろそろ行こうか」
「はい」
今まで二人でスーパーへ買い物には行ったけど、二人で映画に行くってまるでデートの様だ。
映画館があるのは、二駅離れた駅前にあるショッピングセンターなので、久しぶりに電車で移動するが、平日なので、思ったほどこの時間は人がいないので比較的電車は空いていて座る事が出来た。
「依織は今日行くショッピングセンターに行った事ってあるの?」
「はい。私も映画を見るときはよく行っていましたよ」
「そうか〜。じゃあ、せっかくだからお昼も食べて帰ろうか」
「はい。楽しみです」
二駅しか離れていないのですぐに到着して、ショッピングセンターの映画館へと向かう。チケットの券売機で座席を指定しようと画面を見るが、既に結構埋まっている。夏休みなので、結構学生が観に来ている様だ。
並びの席を選択して、ジュースとポップコーンを買って早速館内に入と、既に席の半分以上に人が座っている。
さらっと座っている人達を確認するが、ほとんどがカップルか、女の子二人組の様だ。男だけで来ている人は一人もいない様だ。
やっぱり青春ラブストーリーに男だけで来る人はあまりいないらしい。
もちろん俺も依織に提案でなければ、アクション映画か何かを見ていたはずだ。
「ああ、ここみたい。俺がここで依織はそこね」
「はい。楽しみですね」
二人で席につき映画が上映されるまでの間する事も無いので、ポップコーンを食べながらジュースを飲んだが、Lサイズのポップコーンを二人で分ける事にしたので、俺の膝の上に置いている。
よく考えていなかったが、思いの外食べるタイミングに気を使ってしまう。左手しか使えないので依織の手をよく見ていないと、タイミングが被るって手が触れてしまう。
依織が手を伸ばしてポップコーンを取った直後を狙って手を伸ばして素早く取って口に運ぶ。
ポップコーンをタイミングよく取ることに集中していたら、すぐに映画の本編が始まってしまった。
映画は高校生の男女四人の恋愛模様を描いていた。途中までは普通に観ていたが問題はその内容だった。
四人のうちの男子の一人が交通事故に遭い記憶を失ってしまう。
記憶を失ったと同時にそれまで好意を持っていた相手とは違う相手を好きになってしまい、徐々に四人の関係が変化していく。
記憶喪失の件が出て来た時点で俺の血の気が完全に引いてしまった。
男女の違いはあれど、依織の境遇そのままじゃ無いか……
気まずい。と言うかこの映画はまずいんじゃ無いか?
依織の心を傷つけてしまっている可能性がある。せめて最後がハッピーエンドで終わってくれればいいが……。
チラッと依織の横顔を伺ってみたが、真剣に映画に見入っているその表情からは、心情を読み取る事は出来ない。
映画の話が進むにつれて俺の願いはタイトルの如く、儚い雪に様に散っていった。記憶喪失のまま好きになった相手に告白して付き合う事になったが、最後には記憶を取り戻し、事故前の感情を取り戻すと同時に葛藤しながらも、彼女とは別れて本来好きだった相手と結ばれるという内容だった。
ある意味ハッピーエンドと言えなくもないが、一方の女の子からすればバッドエンド以外の何物でもない。
このラストは俺の心にも突き刺さるものがあった。
俺の立場はあの最後に振られた女の子に近い……
映画の中であれ程仲良くしていたのに、最後は振られてしまった。
分かってはいるし覚悟もできているが俺には現実を見せられた気がしてかなりきつい。
依織は大丈夫だろうか?
エンドロールが流れる最中にふっと我に返って依織の方に目を向けると、依織の大きな瞳からは涙が流れていた。
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