第8話 彼女の家

三日間の入院は思った以上にすぐ終わってしまった。

数時間おきに看護師さんがやってくるので正直心休まる感じではなかった。

しかも来る度来る度に、


「いいわね〜。仲が良くて羨ましいわ〜」

とか

「彼氏が守ってくれるとか、まるでアニメの世界じゃない。憧れるわ〜」

とか

「こんなに可愛い彼女がいたら張り切っちゃうわよね〜」

とか盛大な勘違いと共に色々いじってくるので精神的に疲れた。


依織は記憶が無くなって不安だと思うが、看護師さんにも笑顔で応対していた。

彼女の態度を見ていると守ってあげたい、支えてあげたいと言う俺にはおよそ似つかわしく無い感情が沸沸と湧いて来てしまった。

逆に俺は受け答えに窮してほぼ不審人物の様になっていたかもしれない。

昼過ぎに退院する事になりお世話になった看護師さん達ににお礼を言ってから病院を出た。


「そ、それじゃあ依織、行こうか」

「はい」

「それでなんだけど、着替えとか必要なものを取りに行かないと思うから依織の家に先に行こうと思うんだけど、家は分かる?」

「はい、以前から家族と住んでいる家なので憶えています」

「そう、それじゃあ案内してもらってもいいかな」

「少し歩くんですけど……」

「うん全然大丈夫だよ」


それから俺は依織に連れられて依織の家まで行ったが、依織の家は俺の部屋から大体20分ぐらいの所にある分譲マンションだった。

結構近いな〜と思ったけど、俺達は怪我した現場から比較的近くの病院に搬送されたので、よく考えると依織の家と俺の部屋は近くても何もおかしくなかった。


「それじゃあ、俺は外で待ってるから準備が出来たら来てよ」

「あの……一緒に……来てもらってもいいですか?」


依織……その顔でお願いされたら断る事など出来るはずもないので即ついていく。


「依織がそう言うなら勿論いいよ」


勢いで、いいよと返事をしてしまったが、女の子の家にあがるのは結構ハードルが高い。

誰もいないのは分かっているが、緊張しながらお邪魔する。

中に入り、リビングに通されるが、綺麗に整頓されているし思った以上にいいマンションらしく広くて高級感もありびっくりしてしまった。


「すぐ用意するので待っていてくださいね」

「ああ、別に急がないから」


そう言うと彼女はリビングを出て色々と用意を始めた様で、ガタゴトと物音が聞こえてくる。

彼女の家の広いリビングに一人座っていると落ち着かない。

今のワンルームに慣れてしまっている俺にとってはとんでもない広さに感じてしまう。

することもないのでリビングを見回すと、依織を含めた三人で撮った家族写真が飾られている。

三人とも幸せそうな表情を浮かべているのが見て取れるので、今の状況を考えると心が痛い。


「これが依織の家族か」


依織のママは、依織に似た面影はあるが、フランス人形を思わせる風貌でかなりの美人に見える。

パパは、親の世代とは思えないほどに爽やかな印象を受ける。


「若いな。俺の親と同世代のはずだよな」


俺の父親もそこまで老けた感じはないが、比べても全然違う。

それはこの二人の子供である依織が美人であるのは納得だ。

俺もこんな遺伝子を引き継いでいたら、もっとリア充な生活を送っていただろうなと、妄想が広がってしまう。

しばらく待っていると依織がスーツケースを引きながら現れた。


「お待たせしました」

「もう準備終わったの? 俺の部屋すごく狭いけど大丈夫? こんなに広く無いんだけど」

「はい、勿論大丈夫です。一人でここに住むのは不安なので………」


まあそうだよな。高校での生活の記憶がほぼ無いと言う事は一人暮らしの記憶が無いと言う事を意味しているので、その状態で一人暮らしを始めると言うのはやはり相当負担が大きいと言う事は想像に難く無い。

でも俺の部屋か………

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