第43話 好きな魚はマグロ

翌朝目が覚めると、依織が既に朝食の用意をしてくれていた。

今日の朝ごはんは、ハムエッグにトーストとヨーグルトだ。

シンプルだけど、高校生になってから、朝ごはんは抜いていたので、こんなに充実した食生活が送れるとは思ってもみなかった。


「睦月さんは和食のほうがよかったですか?」

「和食もいいけど、パンもいいと思う」

「よかったです。飽きないようにローテーションで作りますね」

「ありがとう。朝からそんなに頑張らなくても大丈夫だから無理はしないでね」

「無理じゃないです。わたしが睦月さんに作りたいから作っているだけですよ」


依織の言葉に朝から倒れそうになってしまう。

依織のおかげで朝から美味しい食事をとってから、身支度をして約束通り水族館へと向かうことにする。

水族館なんて小学校の遠足以来だ。


「依織は水族館とか動物園とか好きなの?」

「そうですね。結構好きですよ。以前は時々家族で行ったりしていました」

「そうなんだ」


電車を乗り継いで水族館まで着いたので、早速チケットを買って館内へと入る。

順番に館内を回って行くが、外と違って涼しい。水槽の見た感じも涼しげで今の季節にはピッタリだ。


「睦月さんは好きな魚とかっていますか?」

「好きな魚か〜。そうだな〜マグロとかかな」

「睦月さん、それはお寿司とかですか?」

「ああ、俺、一番マグロが好きなんだよ」

「睦月さん、そういう意味ではなくて、見るのがです」

「ああ、そういう意味か。ごめんこれ全然魚に詳しくないから、特にこれっていうのはないな」

「それじゃあ、今日帰るまでにお気に入りを一緒に見つけませんか?」

「もちろんいいよ」


なんか、こういうやりとりって本当の恋人みたいだな。

いや、今は本当の恋人の役回りなのだから、これが当たり前なんだ。


「依織は、魚とか詳しいの?」

「詳しくはないですけど、水族館は結構好きなんです。水族館の魚を見ていると自分が魚になったような、不思議な感じになりませんか? わたし、それほど泳ぐのが得意じゃないので、海の中をこんな風に自由に泳げたら楽しいだろうなって」

「依織は泳ぐのが得意じゃないのか? なんでも出来そうなのに」

「そんなことないです。全く泳げないわけではないんですけど……」

「よかったら、今度泳ぎ方教えようか? 俺小学校の頃、スイミングスクールに通ってたから、泳ぐのは結構得意なんだ。腕が治ったらだけど」

「本当ですか!? 是非教えてください。今更誰にも習えなくて。でも睦月さんの腕が治るのは冬になっちゃいそうなので、治ったら温水プールとか行きませんか?」

「うん、いいな。冬に温水プールもいいかもしれない」

「やった〜♪」


依織がうれしそうに笑みを浮かべながら喜んでくれている。

今はやめてしまったが、小学校の時は大会とかにも出ていたので泳ぎは数少ない俺の取り柄だ。

なんでも出来てしまう依織が、泳ぐのが得意ではないというのは意外だが、少しは役に立てそうなのでよかった。

だけど、俺の腕も数ヶ月は使えないから、行けたとしても、依織の言うように冬になってからしか行けそうにないな。

冬か……その頃には依織の記憶も戻っているかもしれないな。

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