第23話 俺の役目
依織は手に持っていたスマホを岡林先生に渡した。
「はい、お電話代わりました。担任の岡林です。はい、この度は……………はい。そうなんですね。はい分かりました。ご心配無く。草薙さんの事は出来る限りサポートさせて頂きます」
岡林先生と依織のママの電話はスムーズにいったようで思ったよりも短時間で終わった。
「二人共すまないな。別に疑っている訳じゃなかったんだが、高校だからな。親に確認せず一緒に住むのをハイと言う事は出来なかったんだ。事情はお母さんからも聞いたから学校には俺からきちんと説明しておくから安心しろ。それと学校の事で困ったらなんでも言ってこいよ。力になるぞ」
「はい、ありがとうございます」
元々岡林先生はいい先生だとは思っていたが、思った以上にいい先生だったようだ。
これなら依織の学校生活も随分負担が減りそうなので本当に良かった。
「しかし、お前達がそういう関係だとは全く気がつかなかったぞ。俺も結構生徒の事は見てるつもりだったんだけどな。俺もまだまだだな」
「はは…………」
それはそうだ。だって本当は俺と依織は何も関係無いただのクラスメイトに過ぎなかったんだから………
岡林先生の至極当然の言葉に真夏にもかかわらず冷や汗が流れでた。
「睦月さんがいなかったら私どうなっていたかわからないんです。本当に睦月さんがいてくれてよかったです」
「そうか。高嶺はそんな感じに見えなかったがやるときはやるやつだったんだな。咄嗟になかなかできることじゃない」
「はは………」
依織の言葉が胸に刺さる。
皆を俺が騙している……
ただこの依織の顔を姿を見ると本当の事は絶対に言えない。
依織が記憶を取り戻すまではしっかりと俺の役目を果たすだけだ。
俺が一方的に想いを寄せる依織を笑顔にしたい。
依織の事は絶対に護りたい。
例えそれが俺の独りよがりの我儘だとしても。
その後もう一度学校の中をぐるっと回ってから帰る事にした。
「私はなにか部活とかは入ってなかったんでしょうか?」
「依織は、多分入ってなかったと思う」
「それなら良かったです。睦月さんはなにか入っていますか?」
「いや、おれも帰宅部だよ」
そうだよな、いきなり夏休み明けから部活と言われても困るよな。
「そうですか。それじゃあ、学校が始まってからも一緒にいれるし、家のこともできるしよかった」
よかったって、そういう意味か。
依織の言葉に血液が沸騰するような感じがして全身が熱い。
「依織、何か……いや、今日はやっぱり暑いな〜」
「そうですね。でもこの暑さも気持ちいいです」
「そうかな。俺はこれ以上外に居ると溶けそうだ」
依織は素直というか、ナチュラルに気持ちを口にすることがあるので耐性のない俺には破壊力が強すぎる。
「じゃあ、アイスでも買って帰りましょうか?」
「それ良いアイデアだな。それじゃあコンビニで買って帰ろうか」
「はい」
歩き出すと、少し落ち着いてきたので俺は依織に学校に行って何か思い出したか聞こうとして思い留まった。
本当は聞いてみたいが、もし何も思い出していなければ俺の無神経な質問は依織を苦しめるだけだろうから、今後も気を付けなければいけないと思う。
俺は、人の気持ちを慮れる人間になりたいとこの時強く思った。
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