第22話 水曜日の真夜中

うぅ…苦しい…。

声も出ない。

た、助けて…誰か…。


しばらくすると、真っ暗な天井が見えて静寂が戻った。


今週もか…。

もう3週間連続だ。しかも毎週水曜日の真夜中に首を締められるのだ。締められると言っても相手がいる訳じゃない。


横を見ると娘と夫がスヤスヤと寝ている。

私、誰かに恨まれてるのかな?

誰だろ…最近は、誰とも連絡を取ってないのに恨まれるって事があるのかな?


        ***


「おかえりなさい」

「毎日、毎日、玄関まで来て同じことを言うなよ!」

「あいさつは大事だよ…」

「鬱陶しいんだよ!」


「コートかけといて!」


チチのコートを預かって、ブラッシングとファブリーズをかける為、ランドリーラックにかけた。


「おい!メシ!」と聞こえたので、先に夕飯の準備をした。3人で食事を終えて、片付けも終わり、チチのコートのブラッシングの為に洗面所に向かった。

ドアを開けた瞬間、誰かがいるような気がして思わず「きゃっ!」と声が出てしまった。とても強い想いを感じて、チチのコートを見たら、私のものではない長くて黒い髪の毛が1本ついていた。

私はショートボブなので、私の髪の毛でないことは一目瞭然だった。

それはまるで、私はここにいる!と言わんばかりだった。たった1本の髪の毛は、そう怒りを込めて訴えていた。


やっぱり…浮気か…。

こんなことしなくても欲しいならあげるのに…。こんな地獄のような生活から抜け出せるのなら何でも良かった。

自分という存在を殺し、チチの望みを100%叶えているのに、私たちの関係は悪化するばかり。気持ちがないなら別れてあげるのに…。でも、チチが怖くて何も言えない。何か言うと怒鳴られ叩かれる。私に出来るのは笑顔でいること…。ただそれだけ。


そして、ワイシャツを洗おうと手にとったら、見事にちちからは見えないような所に口紅の跡…。思わず笑ってしまった。こんな事までして…。2人で私の前にくれば別れてあげるのに…。

そっか、あなたなんだね。毎週水曜日の夜に私の首を締めに来てる人は…。

そんなに好きなんだ…。


        ***

4回目の水曜日の夜中

やっぱり来た…。

苦しい…。


私は、自分の精神を集中させて、ちちの浮気相手であろう生霊に話しかけた。


ちちの事、そんなに好きなんだ。

私をこのまま殺しても良いよ。

そして、チチと一緒になって幸せになりな。

いつでも別れてあげるから…チチにそう伝えて。


すると、締め付けられていた首が一気に解放され息ができるようになった。

この後、どうなるんだろ?実家帰ろうかな…。


いろいろ覚悟をしていたが、チチからは何も言われず、水曜日の真夜中の出来事もこの日以なくなった。

彼女と別れたのか、しばらく、チチが優しかった。


こういう時、母強し…とか言ってハッピーエンドが待っていたりするんだけど現実はそうもいかないよね…。


ちちからの約束事や禁止事項が50個を超えようとしていた。もう覚えきれない。また、怒られる…。逃げたい…。

誰か助けて…。

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