第18話 記憶2

「母?母?大丈夫?」


 気がつくとあずきが心配そうにこっちを見ている。


「えっと…なんだっけ?」

「母…まだしんどいけど、何か見えたの?」

「うん、あずきの背中にまた管がくっついてるんだけど、なかなか切り離せないんだ」

「気持ち悪い…早く取れないかな…」


「あのさ、パパって…」と言いかけた時に頭の中をいろんな映像が目まぐるしくかけ巡った。


        ***


「ごめんなさい!ごめんなさい!」と私は叫んでいた。

「お前は馬鹿だから、俺が正してやってるんだ。感謝しろ!」


        ***


 ドン!バン!バシッ!

「痛い!ごめんなさい…」

 ドン!バシッ!ドン!


        ***


「ごめんなさい。熱が出てしまって夕飯が作れてないの」

「食事を作るのは主婦の仕事だろ?早く作れよ!」

「はい…すぐ作ります」


       ***

「ちち…ははをいじめちゃダメ!」

「はあ?いじめてないよ?そんな事より子どもが親に口ごたえするなんて悪い子がする事だぞ!悪い子にはお仕置きだ。ベランダで頭を冷やしてきなさい」

「ちち…いや!こわい!あけて〜!あけて〜!」

 父は、あずきの声が聞こえてないかのように窓の鍵をかけカーテンも締めた。

「あずき!」と駆け寄ろうとしたが、腕を捕まれ再び…。

 ドン!バン!バシッ!という鈍い音が聞こえてくる。音とともに強い痛みが走るのがわかる。


(あれ?何をされてたんだろ?)


        ***

「あずき、テレビで漫才やってるよ」

「ホントだ!この芸人さん面白いよね〜」

 2人でテレビを観ながら笑っていた。とても穏やかな時間だった。


「何が面白いんだ!笑うな!」

 あずきは、部屋に行ってなさい。


 ドン!バン!バシッ!


「何するの?テレビを見てただけじゃないですか!?」

「笑ったのが悪い!俺は面白くなかった!」


 ドン!バン!バシッ!


「テレビを見て笑ってしまってごめんなさい」

「それが謝る態度か?悪いと思っているなら土下座しろ!」

 私は土下座をして、震える声で「ごめんなさい」と言っている。


(これは…何?記憶?)


        ***

「これはなんだ?味噌汁のつもりか?」

「味噌汁ですが、口に合わなかったですか?」

「水だな。マズイんだよ。この塊はなんた?」

「ハンバーグです」

「玉ねぎに火が通ってない!食べられるものがないじゃないか!塩もちゃんと入れたのかよ?」

「ごめんなさい。次はちゃんと作ります」

「俺は、お前の料理の腕が上がるように、あえて指摘してるんだ!感謝しろ!」

「はい…ありがとうございます」


         ***


 涙が止まらない…。

 涙は出るが、何で出るかがわからない。

 悲しいも悔しいも怒りもない。

 ただ涙が出るのだ。


「母…泣いてるの?」

 遠くの方であずきの声が聞こえてきた。しかし、あずきが何処にいるのかわからない。


         ***


「オイ!通帳、現金、全部出せ!今すぐ出せ!」

「何で…?」

「俺は、ずっと我慢してきたんだ!趣味の旅行やスノーボード、全部我慢してるんだ!もう我慢はしない!だから、早く金を全部出せー!!」


        ***


 そうだ…。生活費や貯金を全部取られたんだった!

 思い出した…。

 結婚して1日にたりとも幸せだった日なんかなかった。夫の暴力に耐えた日々。最後は、お金も全部取られて家を出たんだった…。


 ハッと我に返った時、

「わぁー!」と泣きながら叫んでいた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る