第17話 記憶

 おぎゃー!おぎゃー!


「ひーちゃん、いーこいーこ。お母さん、もう少しで帰って来るから泣かないよ」


 そう言って、赤ん坊の頭を撫でる手は、とても小さかった。


(あれ?4歳の時の記憶…)


 4歳の時の私は、留守番をしながら妹の面倒をみているようだ。

 妹が泣きやんで、再び積み木遊びを始める。


「お家の中にひーちゃんのベットを作って、みんなのお部屋、お風呂…」


 楽しく一人遊びをしている私は突然、何かを察知したのか天井を見上げて


「あっ!誰か生まれた!いつか出会う人かな?忘れないように折り紙の裏に誕生日を書いとかないと…」


 そう言って、赤い折り紙の裏に

 2がつ10日と書いておもちゃ箱へしまった。


 そんな事もあったような気がするなとボーッしていたら…


「どうしたの?車酔いでもした?」と男性の声が聞こえてきた。振り返ると大学の先輩の車に乗って、窓の外を眺めていた。

「大丈夫です。先輩、今、外を見てたんですけど…めっちゃレディーファーストの人がいたんですよ。車に乗るのに、彼女?なのかな?ドアを開けてあげてました。レディーファーストなんて初めて見ましたよ」


(あれ?パパに似てた気がする…もしかして…出会う前のパパ?)


「すみません!ちょっと順番を譲ってもらえませんか?」と後ろから女性の声が聞こえてきた。見渡すと映画館のトイレ待ちをしているようだった。

 私が戸惑っていると「この子、トイレが間に合いそうになくて。申し訳ないのですが順番を譲ってもらえると助かります」と切羽詰まった感じで訴えていた。目線を下げると、女の子がもじもじしていた。それでようやく状況が飲み込めて、すぐに順番を譲った。


(ん?あの子のお母さん、職場の人に似てる…)


 何が起こっているのかわからないが、いろんな記憶が蘇ってきているようだ。それも次から次に映像として頭に浮かんでくる。


 どうやら、私と関わりが深い人は、出会う前に何処かで出会っているみたいなのだ。それがどうしたっていう感じだが、こんなに重なると気味が悪い。


 私は何者なのだろう?


 学生の頃、パニック障害になり辛さのあまり人生を終わらせようとした時、何かの光に照らされて生きる事を余儀なくされ、数々の事故の回避…人生に生きろと言われている。でも、生きて何をしなければいけないのか?人生は、私に何をさせたいのか?

 今、目の前には、霊障で苦しんでいる娘がいる。何と戦えと?私の霊感は何のため?


 お願い…ただ、平穏に過ごしたいだけなのに。幸せでなくても良いから少しの

 笑顔と健康さえあれば何もいらない。私の人生を捧げても良いから…あずきだけは幸せになって欲しい。


 助けて…。

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