第28話 もう一つの物語2

 社長は意外とロマンチストなんだなぁと思いながら、飲み物を買って社長が待つテーブルへと急いだ。

「社長!」と声をかけようとしたら、社長の後ろの方で悲鳴が聞こえてきた。視線を移すと暴走車が次々と人をはねているのが見えた。このままだと私も社長もはねられると思い、咄嗟に社長を思いっ切り突き飛ばした。


 ドーン!と音がして社長を探したが、真っ暗で何も見えない。「社長…」と声を出そうとしたが声も出ない。一体どうなったんだろ?


 ***


「…か? だ……ぶか?」

「何?社長?」


 そして、突然視界が明るくなった。

 見ると社長が私を抱えて救急車に運んでいるのが見えた?

 え?

 ぐったりした自分を見てるなんて不思議な気分だ。しかし、不思議と痛みを感じることがなかった。


(嘘でしょ!?私、死んじゃったの?)

(あー、こんな事なら社長に告白しておけば良かったぁ…)

(あれなんだろ?)


 よく見ると、社長の指に赤い糸が巻き付いていて、何処かに伸びている。


(どこまで伸びているんだろ?もしかして、これが運命の赤い糸?)

(社長が言ってた彼女に繋がっているのかな?どんな人か見てやる!)


 ***


(意外と近くにいたんだ。でも既婚者じゃん!社長、出会う前に振られたのか…)

 そう思って、自分がどうなったのか気になって帰ろうとした時に怒鳴り声が聞こえてきた。


(え?DV?)

(…見ていられないや。彼女…可哀想。離婚しないのかな?)

(そうだ!社長に彼女が実在した事伝えなきゃ…。あれ?どうやって伝えよう…)

考えていると視線を感じた。ネコがジーッと私を見ていた。

(ん?あなた、私が見えるの?)


 ニャー!


(うそ!返事した!)

(彼女に伝えて、もうすぐ社長に会えるよって)


 ニャー!


(ありがとう。また来るね)


 ***


 急いで帰ると、みんなが私の周りで泣いていた。社長は泣きながら、私の両親に頭を下げていた。


(社長、泣いてくれたんだ)

(社長を助けたんだから幸せになってくれないと成仏できないよ…)

(私の分まで幸せになってもらわないと助けた意味がないじゃん…)


 そして、たくさんたくさん泣いた。やり事たくさんあったのに、親孝行もこれからだったのに…。


 泣くだけ泣いたらなんだかスッキリした。そして、社長の彼女の様子を見に行ってみた。


 ***

 彼女は、原付きバイクで信号待ちをしていた。ふと、見ると信号無視をして暴走している車が見えた。その先に彼女のいる交差点があった。信号が青になって進み始めたら確実にぶつかる。


(どうしよ…どうしよう…)

(進んじゃだめー!)と思いっ切り叫んだら、原付きバイクごと彼女が1つ前の交差点に瞬間移動した。

(うそ!?)


 びっくりしている間に、暴走車が信号無視をして走り去って行った。

 彼女も周りをキョロキョロ見ていた。今のうちに伝えなきゃ…。


 彼女の耳元で(出会って欲しい人がいます)と言ってみた。そしたら、彼女は再びキョロキョロした。

(聞こえた?)


 危うく事故で亡くなる所だったじゃん。何か危なっかしい人…。しばらく、そばにいようかな。

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