第16話 逃げてもムダ?
パパを取り戻せなかった事実を受け、今やるべき事は、1日も早く家を出ることだ。離婚を受入れてから、パパが家から居なくなると、ひっきりなしにドタンバタンと音がするようになった。まるで、早く出ていけと言われているようだ。あずきも恐怖で塞ぎ込むことが増えてきている。
パートは有給休暇を取って、あずきとキナコと一緒に住めるアパートを探しまわった。不動産を何軒まわっただろうか。ペットが居ると、なかなか決まらない。それでも3日で引越し先が決まった。元の家から少し近いのが気になるが、ペットと一緒に住める物件が少なかったから、そこに決めるしかなかった。引越し業者の閑散期ということもあり、1週間後に引越しをすることになった。持っていくものは最小限にした。何となくだが、悪い思念みたいなものを一緒に持ってきたくなかったからだ。家具も家電もなるべく新しいものを揃えた。
新しいアパートは、2DKでトイレと風呂が別のこじんまりした部屋である。新しい生活で、あずきの笑顔も増えてきた。キナコものんびり過ごしている。ただ私の心だけが、まだ動かない。ホッとしてるはずなのに、ホッとしない。楽しいはずなのに心が動いてくれない。まだ、終わってないのか…。家を出ただけではダメなのか?と思い始めていた。
そんなある日、キナコが激しく鳴き始めた。ニャーというよりギニャーって感じだ。あずきに寄り添い、ずっと鳴いている。あずきは、顔色が悪くベットでグッタリしていた。大丈夫?とあずきに触れた時にイメージが流れ込んできた。
あずきの背中に細い管みたいなものがくっついていて、エネルギーを吸われているようだった。その管を辿っていくと、元の家と繋がっていた。急いで、あずきから管を切り離した。あずきの顔色が良くなった。
「母、何かしてくれたの?急に具合が良くなったから…」
「うん。何だか、エネルギーを吸われてたから、それを止めた。でも、一時しのぎだと思うけど…」
「母、まだ終わってなかったりする?」
「うん。パパの部屋の『あれ』に見つかったかも…。ちょっと、元の家を見てくるよ」
「気をつけてね…」
私は、原付バイクで元の家に向かった。そして、家の前に来て愕然とした。闇に包まれ、屋根が朽ち果て、ボロボロになった家が見えた。
パパは!?と、我に返った瞬間、ボロボロの家が普通の家になった。一体、どっちが本物の家なのかわからなかった。『あれ』に気付かれる前にその場を急いで離れた。
アパートに戻ると、また、あずきの具合が悪くなっていた。また、管のようなものが繋がっていた。『あれ』に見つかったんだと確信した。どんなに遠くに行ったとしても、きっとすぐに見つけられてしまうに違いない。パパとあずきが親子である以上、精神世界で繋がるのは容易な事なのかもしれない。
絶体絶命の状況な気がする。これまでか…?そう思った時、声が聞こえてきた。
「もう少しだけ頑張れ!もう少しで辿り着くから…」
誰?
誰かが助けに来てくれるの?
私たちの状況を知っている人は一人もいないはず…。
でも…助けて!!お願い!!早く!!
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