第13話 あずきの異変
次の日の朝、あずきが起きてこないので部屋に様子を見に行った。もうすぐ家を出る時間なのに、まだ布団の中にいた。
「母、なんか体がだるくて起き上がれない。学校、休んで良い?」
「熱がないなら頑張りなさい。ほら、起きて」
「イヤ!無理。お願いだから、今日だけで良いから休ませて」
「学校で何かあったの?」
「何もないよ」
そう答えたあずきの顔は、一瞬、どことなく虚ろな表情に見えた。同時に、何だか嫌な予感もした。無理をさせないで休ませようと自然と気持ちが変化した。
「わかった。少し休んでて、後で朝ごはんを持ってくるね」と、あずきの部屋を出てキッチンへ向かった。
朝ごはんの準備を始めようとしたら、二階のあずきの部屋から大きな物音がした。あずきが暴れているのかと思い、急いで部屋に向かった。ノックも忘れて、ドアを開けた。
しかし、暴れているどころか、あずきはベッドで寝ながら静かにスマホをいじっているだけだった。
「あずき…今、暴れてたりした?大きな音がしたから慌ててきたんだけど…」
「え?大きな音なんてしなかったよ。体がダルいから暴れたりする元気もないし…」
嫌な予感が確信へと変わった。この部屋にも『あれ』が入れるようになってしまったかもしれない。
「あずき、よく聞いて。パパの部屋にいるヤツが、この部屋にも入ってきてるかもしれない。何とかしないと…」
「母…。それで体が重いのかな。除霊して欲しい。昨日の夜から、何もないのに涙が出てくるの。怖いよ…」
「あずき、起きてリビングに来れる?」
「無理!部屋から出たくない!」
「リビングの結界の中にいた方が安全だから、お願い!」
こちらの願いとは裏腹に、あずきは、どんどんヒートアップしていき
「イヤ!嫌だって言ってるでしょ!」と、だんだん私の声が届かなくなっていった。
そして次の瞬間、あずきの声が野太い声に変わり
「出ていけ!出ていけ!」と激怒して手がつけられなくなり、渋々、部屋を後にした。しかし、このままでは、あずきもまた『あれ』に奪われてしまう。取り戻さないと…。
リビングに戻り、キナコに話しかけてみた。
「あずきを助けるために何をしたら良いんだろう?教えて…」
「にゃー」
「にゃーじゃわからないんだよなぁ。日本語で教えてくれるとありがたいんだけど…」
そう言いながら、気持ちを落ち着けるためにも洗濯をしようと洗面所へ向かった。そして、洗濯機の横に備え付けてある背の低いプラスチックの引き出しケースの上にあずきの天然石のブレスレットが置いてあった。あれ?と思って少し考えた。もしかして、昨夜、お風呂に入った後、ブレスレットをつけ忘れてしまったのかな?それで『あれ』の影響を受けてしまった?…まさか…天然石に本当にそんな力が!?
天然石のブレスレットを買ってはみたけれど100%信じていた訳ではなかったし、お守り程度にしか考えていなかった。しかし、天然石を身に着けていないあずきの様子からして、その力の大きさは一目瞭然だった。急いで、天然石のブレスレットを持ってあずきの部屋へ行った。
「あずき、体調はどう?」とドアの前で恐るおそる声をかけてみた。
「母、さっきはごめん」とかすかにあずきの涙声が聞こえてきた。
「部屋には入るね。昨日、お風呂の後、ブレスレットをつけ忘れてるんじゃない?」
「え?してるよ」と言って、あずきは両手首を確認した。そして、「ホントだ。忘れてる」
「持ってきたよ」と言って、あずきに渡した。
ブレスレットを着けたあずきの顔色がみるみる良くなっていくのがわかった。
「母、ありがとう。なんか元気になってきたよ。お腹が減ったから下りる」
「良かった。じゃぁ、何か作るね!」
リビングに行く前に、念の為、盛り塩をしておいた。
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