第12話 霊視
「母が死ななくて良かった。今朝、家を出る時は胸騒ぎがして不安だったんだ」
「心配してくれてありがとう。ハハも生きてて良かったよ。やっぱり、除霊をしようとしたから命を狙われたのかな?それとも偶然…?」
「わかんない…。でも、瞬間移動で助けられた命だよ。偶然って事はないんじゃないのかな?」
「確かに、偶然なら死んでたかもしれないしね」
そう言って、空気が重くならないように、少し微笑んでみせた。そして、リビングに結界が張ってあり唯一の安全地帯であることも話して、あずきの不安を和らげた。
「でも、なんでパパだったんだろう。どうやってパパを見つけたんだろう?」とあずきが続けて言った。
「本当に、何でパパに…」と言いかけて、パパは、お墓とか霊が多い場所や怨念の強い場所を通勤路に使ってるのではないかと、ふと思った。
「あずき、霊視とかってどうやってやるんだろう?」
「急にどうしたの?」
「パパは、寄り道をしないで、毎日、会社と家の往復しかしてないんだよ。だから、会社と家の間のどこかで憑かれてしまったんじゃないかなと思ったんだ。道を辿れば何かわかるんじゃないかと…」
「なるほど…」と、あずきはしばらく考えてから口を開いた。「パパの持ち物とかに触れてみるとか?」
「なるほど。パパの持ち物…何が良いかな?」
「通勤路なら、スーツとかYシャツとかはどう?」
「あずき、冴えてるねー。Yシャツにしてみようかな」
そして、Yシャツの袖口を持って、目を閉じて、パパが家から出て行く所を想像した。実際の通勤路なんて知らなかったが、頭の中に、早送りでどんどん画像が入ってくる。そして、ある場所で止まった。その場所は、細くて暗い道沿いにあるビジネスホテルだった。その一室で親が子どもに虐待している画像とその子どもの苦しみが同時に入ってきた。その怨念のようなものが部屋の絵画に乗り移っている様に見えた。その絵画をよく見ようとしたら、
バッ!と
目の前に、今にも噛みついてきそうな子どもの顔が現れた。その子は、色白で痩せこけていた。ギョッとして、思わず目を開けてしまった。これは、私の勝手な想像なのか?それとも霊視が出来てしまったのか…。毎度の事だけど、確信が持てなくてモヤモヤしてしまう。
そんなことをしていたらパパが帰ってきた。今日も自分の部屋に直行なのかと思ったが、数週間ぶりにリビングに入ってきた。パパなのか?それとも『あれ』なのか?
「ただいまー。疲れたよ。ご飯は?」と、いつものように優しくて明るい声がした。私達が知っているパパだった。リビングだから『あれ』は入って来れないんだ。もしかしたら、パパが元に戻れる唯一の方法かもしれない。
夕飯の支度をしながら、パパにそれとなく聞いてみた。
「パパ、変なことを聞くかもしれないんだけどさ。会社の近くに細い道に面したビジネスホテルってある?」
「あー、あるよ。ちょっと暗いんだけど、近道だからいつも通ってる。そのビジネスホテルがどうかしたの?」
「うん…ちょっとね。その道、あまり通らない方が良いよ」
「なんで?」
「あまり良い感じがしないから。ほら、私って霊感がちょっとあるでしょ。それ系っていうか…」
「わかった。覚えていたら道を変えるよ」
「お願いね」
パパは、幽霊とかは全く信じていないので、あまり詳しく言えなかった。これでパパを守れるのだろうか?パパ、お願いだから道を変えてね。私の出来る事は、そんなに多くないんだから。『あれ』の追い出し方もわからないし、私の除霊は効かないのだから…。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます