第14話 この世は助け合い

 あずきの異変を境に、いろんなことを感じるようになった。しかも、あずきにもいろんな者たちが見えるようになった。


 最初は、家の前の大きな公園の大木だった。窓を開けていて、心地よい風がそよそよと入ってきていた時のこと。風と共に、ふと気配を感じて窓の外を見たら、大木から目が離せなくなり、はっきりした言葉というよりは、イメージに近いような感じだった。


 その大木は「こんにちは。数年前の台風では、折れた枝を何とかしてくれてありがとうございます」と言ってきた。

「いえいえ、あの時は市役所に電話して対応してもらっただけなので…」

「もし、困ったことがあったら話しかけてください」と言って、大木の声は聞こえなくなった。


 その次は、無数の精霊たちだった。あずきが寝ようとして電気をけしたら、丸い小さな光がたくさん現れた。あずきからLINEが来て、部屋に行った時には、もう消えていて、私は見る事ができなかった。


 その次は、天狗だった。あずきが近所のコンビニの前を通りかかったら、ガードレールの上に天狗が立っていたそうだ。その時、天狗が「気をつけろ」と忠告してきたらしい。


 ごく普通の霊、精霊、妖怪、生きている人達でこの世は成り立っているようだ。気が付かなかっただけで、意外と、いろんな者たちが助けてくれているのかもしれない。もしかしたら、未来から来た人や過去から来た人もいるのかもしれない。


 次は、私の夢の話だ。何の脈絡もなく、また真っ暗な水の中にいた。たぶん、夜の海だ。そして、水神龍のようなものに掴まって、ものすごいスピードで水の中を移動しているのだ。どこに向かって、どこに着いたかもわからない。しかし、大事な事という想いが強く残っていた。もしかしたら、私は、水に関係する霊力を持っているのかもしれないと感じ始めていた。

 試しに、お風呂に入りながら公園の大木に話しかけてみた。

「大木さん、聞こえますか?」と問いかけてみた。すると、すぐに頭の中に言葉が入ってきた。

「2階の西側のお部屋が真っ黒です。危険だから気をつけて。あずきさんが危ない。あずきさんの周りに緑の結界を張りましたがいつまで保つかわかりません。その家を出た方が良いですよ」

「え!?でも、引越しなんて…できない。学校もあるし、パパをどう説得したら…」

「早く!早く!」と言い残して、聞こえなくなった。思っているよりもずっと事態は深刻なようだった。パパの部屋に何がいて、何をしているのだろうか?肝心なことがわからない。霊力を使いこなせていないだけなのか、私の力量ではここまでなのか…それすらもわからない。


 そして最後は、キナコだった。

「必ず守るから安心して」


 これほど心強い言葉はなかった。何だか、信頼する人から言われたような安心感があった。キナコはメスなのに、伝わってくる言葉は男性のように感じることが多い。

 前世で恋人か旦那様だったような…そんな安心感と信頼感がある。

「あなたは誰?」と問いかけても返事はない。いつも肝心なことがわからなくてもどかしい。ただ、時々現れるあの黒いスーツの男性だったら、ドラマみたいで素敵だなと思ってしまう。


 このように不思議なことが続き、私の力が及ばない所を周りの精霊や妖怪、キナコが補ってくれているようだった。


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