第26話 一期一会

男か女かわからなかったが、心があったかくなるような人と話ができて楽しかった。

そう言えば、プロフィールを公開しているだろうか?


どれどれ…。男性だったんだ。とても丁寧で誰からも好感を持たれそうな感じだったなぁ。誕生日は…妹と同い年だ。あれ…


2月10日


えっと…そうだ!思い出した記憶の中で、誰かが生まれた日だ!そう思った瞬間、右手が引っ張られるような感じがした。見てみると、切れていた赤い糸が伸びていた。しかし、数メートル先から見えなくなっていた。


会って欲しい人ってこの人?

チャットでは会うこともできないし…このアプリは画像のやり取りも出来ないようになっていて完全に文字だけのやり取りしかできない。顔が見れなければ恋が始まることもないだろうし…。

しかし、運命の人かどうかは置いておいて、また話がしてみたいと思える人だった。1回限りの出会いだったけど…。


そうなのだ、このアプリはログが残らないのだ。同じ人と話をしたくても見つけられないようになっている。トラブルを少なくするためたろうか…そんな一期一会の出会いも悪いもんじゃない。


何だかあったかい気持ちになっていたら夕方になっていて両親が家に来た。


「いろいろおかずを作ってきたよ。ご飯だけ炊いてくれる?」

「もう、心配したぞ。意識が戻ったとお母さんから聞いて本当に嬉しかった」

「お父さん、嬉しくてずっと泣いてたのよ」


「心配かけてごめんね。これからは親孝行していくから…ね」


「そんなのは良いのよ。あなたが元気で生きてくれていれば…それだけで親孝行よ」

「うん」

「今日は、お祝いなんだから、宴会よ!宴会!」


そう言って、母は、お酒やジュース、たくさんの料理をテーブルいっぱいに並べた。


「そうそう!お姉ちゃんが退院したって言ったら、ひーちゃん家族も来るって言ってたよ。旦那さんが帰って来たら一緒に来るって」

「ひーちゃん元気?ずっと会えてなかったから楽しみだなぁ」

「久しぶりに家族が揃うなぁ。お姉ちゃんが結婚してからずっと会えなかったからなぁ」


「そうだったね。実家に帰らせてもらえなかったし、遊びにも行かせてもらえなかったからね」

「いつから暴力を受けていたんだ?」

「いつからって…その…結婚して同居を始めたその日から…」

「結婚初日から?」

「うん。人が180度変わる瞬間を見ちゃった。その後は、怖くて…他人にも言えなくて…でも優しい日もあってさ」

「もういい。話さなくて良い。終わったことだ」と父は少し悔しそうな顔をしていた。


そんな時、インターホンが鳴った。出ると「お姉ちゃんいる?私だよ!」と母親譲りの賑やかさで手を振って立っている妹がいた。

「開いてるから入って」と言う前にもう家の中にいた。

「お姉ちゃん、心配したよ。これからはお姉ちゃんのしたいように生きなね」と私を抱きしめた。

そして、宴会は夜中まで続いた。家族ってこうだよね。忘れてた…。私、幸せな家族に囲まれてたんだなぁ。近すぎてわからなかった。

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