第6話 プラス・マイナス
『除霊を習得』してから、あずきは憑依体質になったのか、感情の浮き沈みが激しくなってしまった。泣き虫、怒りん坊、笑い上戸…何か憑いているのか、ただの思春期かは定かではない。だって、相変わらず見えないのだ!見えないものは確認できない!しかし私(わたし)的『除霊』は慣れてきている。そんなある日の事であった。
「母、何か急に体が…」と青い顔をしてあずきがリビングに入ってきた。
「熱は?」
「ないと思う」
「例えて言うなら、ゲームでHP(諸説あるがロールプレイングゲームなどで『体力』を表す用語)が減っていくような…。何らかの攻撃を受け続けていてHPゲージが赤になってる気がする」
「なにそれ!?取りあえず、いつも通りの除霊をしてみる?」
「うん」
あずきの背中に右手を置いて除霊を始めた途端に、あずきが悲鳴を上げた。
「止めて!死んじゃう!」
慌てて右手を背中から離す。
「もうダメかも…」とあずきは床に倒れ込んで呼吸も荒くなっている。「あずき、大丈夫?!」と叫んだ瞬間に、もうこれは直感でしかなかったのだが、左手だったら?と思い、咄嗟に左手であずきの体に触れてみる。自分の体力を注入するようなイメージでやってみる。すると右手と同様に、左手が熱くなってきた。これは成功か!?と思ったので、あずきの顔を見てみた。すると少し顔の血色が戻ってきていた。あずきの呼吸も安定してきて、壁を背に座れるようになった。
「あずき、大丈夫?」
「う、ん…死ぬかと…思った…」
「びっくりして心臓が止まりそうになったよ。でも左手でハハの体力を注入できたみたい。右手とは役割が違うのかな?」
あずきは「なるほど」と言って少し考えて言葉を繋いだ。
「もしかして、右手がマイナスで左手がプラスの働きなのかも!」
「マイナス?プラス?」
「うん、右手は何かを取り除いて、左手は何かを注入する…みたいな?」
「何かって、何でも良いのかな?それとも『除霊』と『体力』限定の可能性もあるんじゃない?」
「確かに一理あるね」
「わからない事が多いから、限定的な使い方が良いかもしれない。ここは慎重にいこう」
「ところで体力は全回復したの?」
「ううん、60%くらいかな」
「ならあと少し体力をあげるよ。もう少し試してみたいし…」
そう言って、左手であずきの肩に触れた。目を閉じて集中する。また左手が熱くなる。ゲームのHPゲージをイメージして、それが満タンになる想像をして完了!
「どう?」
「何だろ?すごく楽になったかも!ありがとう」
さっきまで座るのでさえやっとだったのに、普通に立って歩く姿を見て、不思議な気持ちと驚きで言葉が出なかった。除霊に続き、体力回復とは、ドラマやアニメの見過ぎだろうか?それとも40歳を過ぎて中二病にでもなったのか!?などと考えていたら急に不安になってきたので、あずきに聞いてみた。
「私たちヤバいんじゃない?除霊とか体力回復とか、中二病っぽい気がするんだけど」
「中二病かぁ…。でもさ、本当に楽になるんだよ…それは事実なんだよ。ほらっ!」と言って体育でやったというダンスを披露してくれた。
「確かに、さっきまで座るのもやっとだったもんね…」
なんだか自分の意志に反して、どんどん何かが進んでいく。そして、両手を見つめながら、今この能力が発現したという事は、この先、もしかして前途多難だったりしないよね!?何かの事件に巻き込まれたりするのかな!?そんなの無理なんですけど…と内心は泣きたくなる思いだった。
しかし、もう考えていても仕方がない。大きく深呼吸をして心の中で叫んだ。
『もう!わかった!霊能力があると信じるよ!来るなら来い!!』
すると、タイミングよくキナコが「ニャ~」と鳴いた。「キナコ、聞こえたの?」と冗談を言いながら夕飯の準備をする為に立ととうしたその時だった。頭の中に音が入ってきた。
『気をつけて!』
びっくりして部屋の中を見渡した。またタイミング良くキナコが「ニャ~」と鳴いた。
まさか…と思いながらも、キナコを見つめて『気をつけるよ』と心の中で答えていた。そして、キナコは大きな欠伸をして、出窓のクッションの上で丸くなった。
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