第7話 天然石

『気をつけて!』という言葉が頭から離れず、あずきにも注意を促した。しかし、何に気をつければ良いのか見当がつかない。イメージでは悪霊とか事故とかが浮かぶのだが、それも防ぎ方がわからないのだ。お守りのようなものがあれば良いのにと悩んだ末、検索サイトで調べることにした。


  《悪霊 守る アイテム》


 これで検索をするといろいろ出てきた。何ヶ所かクリックしていくと、天然石のブレスレットが出てきた。調べていくと、天然石には意味や効果があるみたいだ。ブレスレットなら普段身につけていても違和感がないかもしれない。そう思いながら、早速、近所で天然石のお店を検索をした。意外にも近所には数件のお店があった。その中でショッピングセンター内の店舗があった。そこにあずきと一緒に行ってみることにした。ショッピングセンターなら、万が一、変な物を売りつけられてもすぐに助けを求められるからだ。


 天然石のお店は、だいたい6畳くらいの小さなお店だった。いつも来ているショッピングセンターなのに一度も気が付かなかったくらいだ。天然石のお店と聞いて、悪徳業者のイメージしかなかったが普通のお店のようだ。

 入ってみると所狭しと色とりどりの天然石が並んでいた。オーダーメイドが基本なのだろうか、天然石はバラバラの状態でビーズのように陳列されていた。何をどうやって選んだら良いのかさえ見当がつかない。困っていたら、カジュアルな服装の髪の長い女性店員が声をかけてくれた。怪奇現象などと説明しても信じてもらえないと思い、私は苦笑いしながら『魔除け』のブレスレットを作りたいとだけ言った。

 すると、女性店員は『魔除け』の言葉にも動じず、慣れた感じで幾つかの天然石を持ってきてくれた。黒、白、緑、青、透明…。女性店員は、石の名前を言って出してくれていたが全く頭に入ってこなかった。どうしようと思いながら、チラッとあずきの方を見た。

 すると女性店員が出してくれた中に気に入った石がなかったようで誕生石を探していた。

 あずきも私も同じ2月生まれで『アメジスト』が誕生石だそうだ。あずきが選んだアメジストは、穏やかで綺麗な紫色だった。ビーズのような丸いものではなく、カットされたものだった。女性店員によると『愛』や『癒し』などで知られているが『邪悪なものから身を守る』という効果もあり、オールマイティな石らしい。丁寧な説明を聞いていて不思議とこれだ!と思った。そして、どんな服にでも合う控え目なブレスレットを希望している事を伝えると、女性店員は、アメジストと水晶の組合せで、ブレスレットを作成するパレット(ブレスレットの直径に合わせて窪みのある輪になっている。窪みの部分に石を並べていきイメージがしやすいようになっている板状の台)に並べて見せてくれた。あずきは「可愛い!これにする!」とノリノリである。私は、念の為、『魔除け』の効果が強いオニキスという石を追加してもらった。オニキスは、真っ黒で存在感があり過ぎなので、他の石より直径を小さなものにして目立たない配置にしてもらった。


 買ったブレスレットをはめると不思議な感覚に襲われた。ずっと、気持ちがソワソワしていたのが落ち着いてきて、体が少し軽くなったような気がするのだ。目に見えない力を信じる事に慣れてきているのか、天然石の力は素直に受け入れられた。あずきは、手首に着けたブレスレットを角度を変えながら、光に照らしずっと眺めている。初めてのアクセサリーで何だか嬉しそうだ。


 思いつく限りの準備はできた。なんだろうか…嵐の前の静けさという感じがする。この胸騒ぎが当たりませんように…。そう願いながら手首に着けたブレスレットにそっと手を置いた。

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