はは+あるふぁ

結々

第1話 はじまりは前世体験!?

 あれ?ここは?


 見上げるとキラキラした空が見える。


 ぼーっとした頭で、

 今日は良い天気なんだぁ。そろそろお昼頃かな?

 そんなことを考えながら見ている景色に何か違和感を覚える。


 だんだん頭がはっきりしてきて、今見ている景色はキラキラ光る水面なのか!?

 左手を水面の方へ伸ばしてみるが全く届かない。すでに水深5メートルか10メートルくらいだろうか、ゆっくり、ゆっくりと沈んでいる事に気づく。普通は、ここでパニックになるはず…なんだけど…。私は、至って冷静である。沈みゆく体を水に委ねている。まるで水中で呼吸ができているかのように息も苦しくない。ただ静かな時があるだけである。


 私、投身自殺でもしたのかな?全く覚えてないや。死ぬ時って、こんなに冷静でいられるものなんだね…。誰にも気づかれず、どこかもわからない場所で一生を終えるとは思いもしなかったなぁ。救いなのは天気が良くて気持ちの良さそうな日なのだろうということだけ。


 そんな事を思いながら、ゆっくりと目を閉じ最期の時をしっかり見届けようと、もう一度目を開けた。


 え!?誰!?


 さっきまではキラキラした水面しかなかったのに、今は黒いスーツを着た男性の背中が見える。その男性もまた何の抵抗もせず、ゆっくりと沈む体を水に委ねているように見えた。しかし次の瞬間、水面を掴もうと上げた左手が見え、その腕には黒い袖が揺れていた。


 ピピッ!ピピッ!ピピッ!


 突然の大きな音で目が覚める。スマホの目覚ましだ。すぐに解除ボタンを押す。起きた瞬間、前世の最期の瞬間だと感じた。そう思った理由はない。ただ直感的にそう思っただけである。寝ぼけた頭で前世は男性で何らかの理由で投身自殺をしたんだ。なんて悲惨な人生だったんだろうと考えていた。

 しかし、夢に浸っている時間はない。急いでキッチンへ行き朝ごはんの支度をする。


 私は、パパと娘と猫一匹で普通の生活を送っている。パパは会社員、娘のあずきは中学2年生で猫のキナコは保護猫の茶トラである。そして、あずきは私を『母〜』と呼ぶ。


「母〜!母〜!靴下がないよ~」

「あずき、靴下より大変なことが起こったんだよ。ハハは前世の夢を見たんだ!ちょっと聞いて〜」

「母〜、靴下〜ぁ。夢の話?はいはい学校から帰ってきたら聞いてあげるよ」

「もう!いつも、そうやって誤魔化すんだから。キナコに聞いてもらおうかな?」


 ちらりとキナコを見ると、出窓に置いたクッションの上で気持ち良さそうに寝ていて、こちらには全く関心がなさそうだ。


『…おなか…った』


「あずき、何か言った?」

「何も言ってないよ」

「そっかぁ、何か聞こえたような気がしたんだけど…」

「やだぁー、怖いんだけどー!」

「前世の記憶が蘇って、霊感が強くなってたりしてねー。ハハはそんな気がしてきたよ!」


 ニャ~!

 いつの間にかキナコが足元に来ていた。そしてエサ皿の前でちょこんと座って鳴いている。

 ニャ~!ニャ~!


「あっ、ごめん、ごめん。カリカリ出すねー」



 その夜、珍しくあずきが話を聞いてくれた。

「ふーん、それって前世の夢なの?自分の背中が見えるとか変じゃない?」

「確かに…。でも、起きて直感的に思ったんだよ。前世の記憶だ!って」

「まあ、母はちょっとだけ霊感があるんだもんね。直感は信じてもいいかもしれない。前世の夢かぁ。私も見てみたいなぁ」

「霊感があるっていってもさ、なんとなく感じる程度だからねー。それが本当かどうかはよくわからないし」


 アニメや小説では、前世の夢を見たら特殊能力が開花しちゃったりするんだよなぁ。現実に起こったら…とワクワクした気持ちになった。

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