第23話 計画

 気がつくと母が病室ベットの横で椅子に座っているのが見えた。


「お母さん」

「気がついた?」

「私、また眠ってたの?」

「うん」

「心配ばかりかけてごめんね。私、全部思い出した。あずきのことも結婚生活のことも」

「辛かったね〜。あんた頑張ったよ。すぐに気がついてあげられなくてごめんよ」

「ううん、大丈夫だよ。ずっとあずきがそばに居てくれたみたい。もう大人の姿をしているんだよ」

「そうなんだね」

「私、もう少しだけやらなきゃいけないことがあるんだ。親不孝ばっかりでごめんね」


 あずきが亡くなってから記憶とそれ以前の記憶が全部戻った気がする。


 あずきの成長を見れたのも幸せだった。あずきが中学に入ったくらいの頃からチチは、ほとんど自分の部屋に篭りっぱなしだったなぁ。まあそうなるか…。見えない人と話続けてるのを見続けてたんだもんね。むしろ、よく15年間も付き合ってくれたなぁ。夢の中で過ごしていたようで全部現実だった。


 そんな事を考えていたら「意識が戻って良かった!次来る時は、何か美味しいものを持ってくるよ」と母は嬉しそうに帰っていった。相変わらず賑やかな人だ。


 さてと…。あずきの体に管がくっついていたのが最後の記憶だ。今思えば、あれは、私に向ってきていた管をあずきが食い止めてくれていたんだ。あの家に戻って…いやいや、それはもう無理だ。じゃあ…どうすれば…。あの管は今どこへ?

 記憶は戻ったけど細かく辿ろうとすると恐怖が蘇ってきて気分が悪くなる。関わるより逃げるか隠れるか…。アレは、何かの思念のようなものだよね…?相手からは、私がはっきり見えているんだろうな…。


 そうか!

 相手から見えなければ良いんだ。

 私の周りに幾重もの意識の壁を作ろう。

 そして、人混みに紛れるように…。


 意識の人混み…意識…。

 

すると急に病室の窓を突き破って何が入ってきた!

(母!大丈夫?)

声の方を見ると、あずきの背中が見えた。

(母に近づくな!)と言って、大きくて暖かい光を放った。その光にその何かが一瞬怯んだように見えた。


(お前の生命が欲しい。ウマそうなんだ。食わせろ!)

(母の生命はあげない!来るなー!)と思いっ切り叫んだと同時に何がが病室の窓を覆った。そして、アレは入ることができなくなった。


「これ…草?木?」

いつの間にか樹木の壁が出来ていた。

(へへっ、一時的にしかできないけどね)とあずきが照れくさそうに笑った。

(とりあえず、夜が明ければ安全だから…)

「ありがとう…。じゃあ、明日の夜までに何とかしないといけないね」

(母の意識が戻ったから、場所がバレちゃったんだと思う。私も何度もこんな事は出来ないから…)

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