第24話 森の中へ
何かの思念?妖怪?悪魔?悪霊?鬼?
何が追い掛けてくるのかわからないが、早く平穏を取り戻したい。
意識の壁…人混み…。
そうか!
この夢か現実かわからない体験を物語にしてSNSに載せよう。そうすれば、少なからず、人の反応があるはずだ。感想やイイねに繋がらなくても、読者の感情が動いて重なっていけば、意識の森が出来るはずだ。そしてたくさんの人の意識の森に隠れよう。
スマホを手に取り、SNSアプリを開いて、フィクションを交えながら文章を綴っていった。ゆっくり考えている暇もない。朝から書いてるのにまだ終わらない。もうすぐ夕方になる。微かに、何かが向ってくるような音がする。その音よりも早く文章を打つ!人混みをかきわけるようにアレは、私を探しているような気がする。見つかる前に、私の物語を完成させなければ!あずきの言うとおり、私は生きる…生き延びる!そして、この悪夢が終わることを願いながら送信ボタンを押した。
それと同時に日が落ちた。
ゴゴゴ…ッ!
アレが来た!と窓の外を見たが何も起こらなかった。間に合ったのか…。
ふと見上げるとキレイな満月だった。
とても静かな時間だった。
「月がキレイ…」
(そう、あの時も満月だったんだ)
「あの時?」
(私がベランダから落ちた日だよ。あの日も満月がキレイでさ。手を伸ばせば届くような気がしたんだ。だから、ベランダにあった椅子に乗って、月を取ろうとしたら落ちたの)
「え!?」
(だから、父も母も責任を感じなくて良かったんだよ)
「どんな理由にせよ、子どもがいなくなって悲しまない親はいないよ。でも、私は幸せだった。本当なら成長を見届けることなんてできなかったのに、霊感があったからあずきの成長を見る事ができた。こんな幸せな事はないよ」
(母、幸せになってね。母を待ってる人がいるよ)と言って、あずきはスゥーッと消えてしまった。
待ってる人ね…。この先、誰かを好きになる事なんてできるのかな?怖すぎてできないよ、あずき…と心の中で私は呟いた。
−数日後−
SNSを開き、物語の反応を確認した。イイねもコメントも1つもなかった。誰かの目にとまっているのかさえもわからなかった。SNSという大きな世界の中に、ひっそりと埋もれてしまったのだろう。期待はしていなかったが、何の反応もないというのは少し寂しさが残った。だか、埋もれたことによって、私は逃げ切れたような気がする。もう見つかりませんように…。
そして、この物語も見つかりませんように…。この物語を読んだ誰かが次の標的になることもありませんように…。
だって、アレはまだ何処かにいるんだから…。
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