第31話 約束

 1日の終わりにほっこりした気持ちにさせてくれる人ができた。ハンドルネームは夜空。

 話をすればするほど何故か惹かれていく。どこの誰かもわからないのに…。わかっていることは、とても丁寧な人ということ…。


 でも、私は知っている。人は一瞬で豹変してしまう事を…。騙されているかもしれない。夜空さんは、良い人だと感じるが本当は怖い人だったらどうしよう。彼の何に惹かれているんだろか?愛を語る訳でもなく、性欲の対象として見られている訳でもなく、ただ人として扱ってくれているだけなのに…。なのに、心が奪われていく…。


 ***


(社長、このアプリで呟いて!お願い!彼女を見つけたよ。社長!)

(聞こえる訳ないか…)


「ん?何か聞こえたような…」


(社長!社長!このアプリ!)


「暇つぶしにちょっとやってみるか…」


(そう!エライ!)

(えー!?たけのこの里って…そんなんじゃ彼女の目に止まらないよ)


(嘘!?コメント来た…)

(社長、確かめて来ますから、話を続けてて下さいね)


 〉〉〉


(おー!同じアプリ開いてる)

(勝手に覗いてすみません!)

(相手のハンドルネームは夜空!社長だ!)


 〉〉〉


(社長!その人ですよ!その人!)

(あーもう!どうやって伝えたら良いの?)


(そうか!赤い糸を引っ張ってみよう!

 えいっ!)

(社長!気付いて!お願い!)


「こ、コメントが来た!」

〈アルフォートも美味しいですよね〉というコメントを見た瞬間に社長は少しの間、固まっていた。


(社長?おーい)

 社長の目の前で手を振ってみたが…見える訳ないか。


(おーい、社長。話を続けないと彼女がどっかに行っちゃうよぉー)


「あ……海の中の…。まさか。こんな一言で?でも、この人…なのか?」

「痛っ」と社長は頭をおさえている。


 ***


「…何の記憶だ?」

「僕が言ったのか?」

「生まれ変わっても必ず君を探し出すと…」


 あれは、綺麗な満月の夜に手を繋ぎ散歩をした時だったね。僕がそう言うと君は嬉しそうに言ったんだ。


「きっと探さなくても会えるよ。どんなに生まれ変わっても必ず会える運命だと思うよ」


 そうだった。随分、遠回りしたな…。

 君もその約束を覚えているだろうか?


 ***


 アプリの仕様を理解しないまま彼女とのやり取りを終えてしまった。ログが残らないなんて、今時そんなアプリがあるとは…。お願いだもう一度だけ僕の所に来て欲しい。そしたら、もう君の手を離さないのに…。


「あれから1週間か…今日で最後にしよう…」


〈たけのこの里〉…〈コアラのマーチ〉


 ピコン!


〈アルフォートはどうですか?〉


 ***


 数カ月後

 彼女との会話は楽しくて途切れる事がなかった。そして、彼女に会いたい想いが大きくなっていた。


「次の水曜日なら仕事を早く切り上げられる」


〈あの…もしご都合が良ければ次の水曜日にお会いできませんか?〉

〈夜空さんは、どこにお住いなんですか?〉


「そうか…お互いにどこに住んでいるのか知らなかったな…。遠くても会いに行こう」


〈僕は東京です〉

〈私は、職場が東京です〉

〈意外と近くにいたんですね。水曜日はお会いできますか?〉

〈はい、大丈夫です。夜空さんは、東京駅は近いですか?〉

〈すぐに行ける距離です。なら、19時に東京駅の前で待っていますね〉

〈ちょっと待ってください。それだけで会えますか?夜空さんのお顔も知らないし…〉

〈大丈夫ですよ。あの時のスーツで行きますから、きっとすぐにわかります〉

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