第3話 キナコ!静かにしなさい!

 丸ちゃんに霊感が強いと言われてから、人混みとか家の隅とかをよく見るようになったけれど、相変わらず半信半疑のままである。それよりも最近の悩みは、キナコが家の中を走り回っていること…。


 ウチは一戸建てに住んでいるのですが、1階と2階の廊下と階段を全速力で上り下りするのが最近のキナコのお気に入りなのです。


 ドタドタドタッ!

 バタバタッ!


 今日も元気いっぱいのキナコです。

 その音を聞いていたあずきも「ねー、キナコは何であんなに走り回ってるの?」と訊ねるくらい。


 ドタドタドタッ!

 バタバタッ!

 ドタドタドタッ!ドタドタドタッ!

 バタッ!バタバタッ!


 それにしてもいつもに比べて騒がしすぎる。流石に、堪忍袋の緒が切れて、


「キナコ!静かにしなさい!」と廊下に出て大声で叫んだ。しかし、あれだけドタバタしていた廊下は静寂に包まれている。

 『あれ?キナコがいない!?』

「あずきー?キナコって何処にいる?」

「さぁ?ドタバタしてたから廊下じゃないの?」

「それが居ないんだよ」


「キナコー!何処にいるの?怒らないから出ておいでー」とキナコの捜索を始める。あずきと2人で探し始めて5分くらいしたところで、コタツの中ですやすや寝ているキナコを発見する。「あれ?キナコ、寝てるよ。さっきのドタバタって何!?」とあずきと顔を見合わせる。


 あずきは苦笑いを浮かべながら「確かに、私もキナコが走り回っている音は聞こえてた。廊下に出るドアも閉まってたもんね…」と一つ一つ確認をしていく。


「うん、入ってきたらわかるし…。あの音は何?」少し背筋がゾッとした。

「母だけならともかく、何で私まで聞こえちゃったよ!?怖いよ」

「なんかごめんね。ハハの霊感が移ったのかな?怖くなってきたから盛り塩でもしとく?」

「何でも良いからしておこうよー。怪奇現象だったら止めないと!」

「怪奇現象って大袈裟じゃない?」

「いやいや、母、冷静に考えてみて、これは怪奇現象だよ」


 しばらくの沈黙が続いた後、

「あ!そういえば、テレビでファブリーズで除霊できるってやってた気がする!」

「母、それはお笑いか何かの番組ですか?そんな訳ないじゃん!」

「なんの記憶かわからないけど、やっておこう!」


 何の根拠もなく家中にファブリーズをしてみる。あずきから見たら滑稽に映っているのだろう。でも、その場の空気を変えるためにも何かをやるしかなかった。


 私は「除菌、消臭、除霊〜♪」と歌いながら、ファブリーズを撒いてまわる。そして怪奇現象ではないことを祈るばかりであった。あずきも「何?その歌ー」と言いながら笑ってくれたので少しホッとした。


それにしても、最近、変な事が起こるなぁ。考えてみたら、あの前世の夢を見てから何かの扉が1つずつ開いていくような気がするけど…。

『何の扉を開いてしまったんだろ…?』

果たして、私が手に負える範囲内の事で済めば良いのだけれど…。

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