第23話

その後も何度か場内指名に変えるのはしない方が良い、何か実被害があれば必ず俺が対応すると説得し明日香さんは半分不安、半分納得出来なそうな顔で同伴へ向かった。


ちょっと説明がまずかっただろうか。

実は相番になるだろう相手に場内指名への切替えを要求するのは、ひまりさんの常套手段なのだ。


ただなぁ、俺は今こういったキャスト同士の駆け引きとかいざこざにはあんまり首を突っ込むなって言われてるしなぁ。

店長曰く、俺が味方したほうが圧倒的に有利になっちゃうかららしい。

そうなると、皆俺を担当にしたがる様になるしキャスト同士の微妙なバランスが崩れるとのこと。

…俺ってそんな強キャラなんだ、全然自覚無いけど。

いかん、前世からずっと女性関係に縁遠いもんだから、どうすれば良いか全然分からん。


うーん、やっぱり担当なんだし、はっきりと場内指名に変える様にとひまりさんから言われると思うけど、要求を咽んだら駄目だ、一度咽んだらひまりさんのグループ全員からも同じ様に要求されて、しかもどんどんエスカレートするだけだ、と言ったほうが良かっただろうか。


「はじめ、こんなところで何してんだ。そろそろ回転準備始めるぞ」


しばらく一人Vipルームで悩んでると、回しを担当している荒木さんが呼びに来た。


キャバクラは大体45分~1時間くらいをセットと言って、このセットを基本として料金の設定や、キャストの入れ替えを行っている。

回しとは、どこの卓にどのキャストをつけるかを管理するマネージャー的存在のことだ。

ちなみにフリーのお客様だと1セットで大体3~4人、キャストを入れ替えをするのが普通で、指名をするとこの入れ替えの頻度が下がったり、入れ替え自体がなくなったりする。


「いや、さっき明日香さんから今日の同伴はひまりさんとの相番になるって相談を受けたんっすけど。どこまで、突っ込んでアドレスして良いものか分からなくて」

「あぁひまりか。うーん、あいつの場合、最初は強めに対応しといた方がいいぞ。すぐ調子のるし」

「やっぱ、そうっすか」


ちょっと、後悔してきた。

もうちょっと、親身に対応しとけば


「まあ、お前のなるべく穏便にって気持ちも分からなくはないけどな。まだ実害受けたわけじゃ無いんだろ? じゃあ、今日の上がり前にでもひまりに注意しとけばいい。回しは結衣たちの卓につけるようにするから」

「ありがとうございます。 そうします」


流石、この道十数年のベテラン黒服荒木さん。

つーと言えばカー。

明日香さんがひまりさんと相番するって言っただけで、俺の悩みにしっかりアドバイスとフォローをしてしまえる、仕事の出来るナイスミドルだ。ハゲだけど。

精神年齢だけはおっさんのくせに、前世と孤児院時代はぼっちで人間関係の問題にめっぽう弱い俺とはエライ違いである。


「よし、じゃあ、ちゃっちゃと準備終わらせるぞ」

「はい」


まぁ、ひまりさんでも相番初日から何かやってくる事はないだろう。

今日の上がり前にしっかり、注意すればいい。


そう思って仕事を始めると、少しは気が楽になった。

明日香さんとひまりさんが同伴から帰ってくるまでは。

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