第5話
キャバクラのキャストさんには業務外業務がある。
店で接客している訳ではないが、仕事と言っても差し支えない時間、まあ同伴とか呼ばれる物だ。
同伴とはキャストの出勤に合わせ指名のお客様が来店することで成立するが、大抵は出勤前にデートして連れ立って来店される。
うちの店では大体18時辺りから21時までの時間限定でキャストの半プライベートを体感してもらうシステムって感じだ。
時間限定になるのは店の細かいルールのせいなんだけど、それは置いといて。
出勤簿には記されないのに、お店のルールに縛られる不思議な時間なのである。
「いっちゃんはさー、この店行ったことある?」
店が超暇だったある日、待機席でずっと端末をいじっていた結衣さんがいかにも高級そうな鉄板焼き店が表示された端末を見せて来た。
なんとか客を呼ぼうとメッセージを送りまくっていたら、後日の同伴に誘われたらしい。
ご苦労様です。
改めて端末を見る。
お店の写真の下にお手頃価格と書かれたコース料理の写真が貼ってある。 伊勢海老ってお手頃だっけ? 疑問を感じつつ画面をスクロールさせる。
お値段なんと15000円なり。
成る程、お一人一食15000円がお手頃ですか。
世の不条理を感じずに要られません。
「あぁ、ないすっね。てか、行く筈ないっすね」
この人は俺をなんだと思ってるのか。
ついこの間、職無し、文無し、宿無しだった人間に一食1万オーバーの食費が捻出出来るとでも?
「へー、鉄板焼き好きくないの?」
そんな可愛く首を傾げたら、なけなしの貯金を下ろしてその鉄板焼きの店に連れ込みますよ?
「いえ、単に値段の問題で」
たまには贅沢したくなることもあるけど、この値段はねーわ。
「えー、でも冒険者の時は稼いでたんでしょ? その時に行ったりしなかったの?」
うーむ、なぜそんなに冒険者時代の事を知りたがるのか。
「そもそもそんなに稼いでないし、贅沢も出来ませんでしたよ」
実際カツカツだった。
収入はそれなりだったが、冒険者は装備やら道具やらで出費も多いからな。
「ふーん、大変だったんだねぇ…(じゃああの話はなんだっのかな?)」
ん?
最後聞き取れなかったぞ?
なんかボソっといったみたいだけど。
「じゃ、私もやーめた。こういうとこ、肩凝るしね。うーん、やっぱ焼き鳥かな?」
鉄板焼きと落差激し過ぎるけど、お客はそれで納得するんだろうか?
まあ、結衣さんとだったら何処行ってもテンションMAXだろうから関係ないか!
「焼き鳥なら、ここいいっすよ? 昔からのツレが働いてんですけど、こないだ行ったらめっちゃ美味かったです」
孤児院同期のたーぼー、孤児院でも料理を手伝たりと元々そっち方面に進む積もりだったらしい。
今や一端の料理人である。
「あっ、ここ知ってる。最近美味しいって話題になってた。 へー、いっちゃんの友達がはたらいてるんだ。へー」
何を納得したのか、うんうんと可愛く何度か頷き端末の操作を始める。
「へへー、予約しちゃった」
と、操作を終えて予約完了通知のメールを表示させた端末を腰に手を当てつつ自慢げに見せてくる結衣さんに惚れてしまいそうです。
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