第12話

やってきた「カスたまエース」の前で少し気合を入れなおす。

これからの交渉で彩佳、瑠璃の生死が決まるかもしれない。

ホームセンターのような店内を通って、奥にあるサービスカウンターへ。

この奥に事務所があるはずだ。


「すみません。角田さんに会いに来たですが、取り次いで頂けますか」


いきなりの俺の社長に会いに来た宣言に店員のお姉さんは面食らったようだ。

このお姉さんには俺が訪ねてくることは知らされてないらしい。

きょとん顔の狐耳お姉さん、ご馳走様です!


「おい坊主、なんで社長の名前しってのかしらんけど、取り次げるわきゃねぇだろ、出直しな」


ま、知らなかったら普通そうですよね。

気を取り直したらしいお姉さんは、こ馬鹿にした顔でしっしっと俺を追い払おうとする。てか、言葉荒いよお姉さん。


「あー、一応アポは取ったんで。ほら、これ角田さんから貰った名刺です」


怪訝な顔になるお姉さん。

名刺をまじまじと見て、今度はびっくり顔だ。


「本物?」

「本物ですよ、端末の番号とかあってるでしょ?」


パソコンっぽい何かと名刺を何度も見比べ更にびっくりの表情。

そしてじょじょに顔が青くなって耳が垂れてくる。

表情豊かだな、お姉さん。


「失礼しょた、しょ、少々お待ちくだらぃ」


慌てた様子で、奥の扉へ消えていくお姉さんを見て、ちょっと癒される。


「おま、おたへいひゃしました。…ふぅ。どうぞ、奥へ」

「ぷっ! あ、失礼。ありがとうございます」


片言のかみかみですけど、大丈夫ですか?思わずそう続けそうになった。

ちょっとカワイ過ぎますよ?

こういう人、うちの店にいないなー。

うち来てくれないかなー。


ふと、さっきまでの緊張感が少し抜けている事に気が付いた。

そうだ。ここで今俺が焦ったところでどうしようもない。いや、碌なことにならない。

落ち着け俺、人生45+20年も生きてんだ、ここで落ち着かなくていつ落ち着く。


「失礼します」


社長室と書かれた部屋は思ったより広くなかった、角田さんが使っていると思われる机と、応接用のテーブルソファーのみの部屋だ。


「待ってたよ、山田君。事務所側の受付ではなくて、店のカウンターから来るとは思わなかった」


あ、これ俺がやっちまってた。

そうか、そりゃそうだな、店に用事があるわけじゃ無いんだし、普通事務所にも入口あるよね。


「いや、すみません。事務所の入り口が分からなくて、お店側からお尋ねしました」


店しか来た事なかったから、まじで気づかなかったわ。


「そうか、カウンターで失礼はなかったかね?」

「いえ、かわいかったです」


ホント可愛かった。

角田さんははてな顔だが、事実だ。


「そうか、ならいいが。で、その気になったというのは、冒険者に戻る気になったという事で良いのかね?」


おっと、いきなり本題に入って頂きました。


「正直、冒険者に戻りたいかと言われると、そうでもありません。ダンジョンにまた潜る、今はただそれだけです」

「ふむ、どういうことかな?」


思ってたのと違うといった感じだな。

そら、そうだ。角田さんは俺に「カスたまエース」の装備を着させ、活躍させて宣伝をしたいのだから。


「昔馴染、孤児院の妹分たちが、ダンジョンに取り残されています。出場予定2日目。何とか助けたい」

「…なるほど、大体の事情は察した。君は私にそれの援助をしろと言うのだね」

「はい」


はっきり言って、この話は角田さんにとって何のうま味もない。

浮かれた馬鹿が俺は成功するから装備の援助よろしく、とか言っているのよりもうま味がない。

けど、いま交渉が出来そなところは、ここしか思いつかなかったから仕方ないのだ。

これで角田さんがうちの店来なくなったら、首じゃすまないな。


「3つ条件がある。それをのめば、援助してもいい」


え、まじで?

いいの、こんな簡単で。


「条件を」


ただ、迷っている余裕はない。


「1つ、君の冒険者復帰だ。冒険者中心じゃなくてもいい、今の店を続けながらでも復帰してほしい。2つ、冒険者活動はうちの専属でやってもらう。3つ、援助するからには、必ず成功させてくれ。どうだね?」

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