第9話
何度も言うが、ここはファンタジー日本でありファンタジー種族がいる。
つまり長命種も存在しているため人間族にとって見た目がいくら若くても、中身はば
「ぐぇ」
「あんた、いま失礼なこと考えてたでしょ」
めっちゃ痛い。
おれの脇腹に見事なエルボーを食らわせた細マッチョなこの方は、バー「ブラックローズ」のオーナーゆうきさん。
バーの名前をみてピンとくる方も多いのではないだろうか、所謂おねぇである。
「まだ、たりない?」
おっと、このゆうきさんは人の心を読むのに長けたお方で、要らん事を考えているとエルボーやらが飛んでくる怖いお人なのだ。
「いえいえ、とんでもないです。 いつ見てもお若くてスタイリッシュでお奇麗だなと思っていただけです」
実際ゆうきさんは、見た目が若くて細身でマッチョでスタイリッシュである。
明け方まで開いているバーを閉めた後の10Kmのランニングを日課にしている健康ガチ勢で、比較的自堕落な人間が多い夜の業界にいるのが不思議な人でもある。
本日最後の営業返しはこのお店である。
「いっちゃん、なんだかぼー読みだよ?失礼だよ?」
そんな事はない…筈だ。
嘘は言っていないんだもの。
「いやだな、結衣さんまで。ホントに思ってますって」
今「ブラックローズ」に客は俺たちしか居ないので、貸し切り状態だ。
そんな事もあって結衣さんとゆうきさんは俺を挟むようにカウンター席に座って、ハイボールを飲んでいる。
ホントはダメなんだけどね、バーを含む所謂スタンドと呼ばれる業種ではスタンド(立つ)と言う名前なだけに店員が席に座るのはNG、お客のグラスに直接お酒を注ぐお酌行為も禁止ではあるのだが、小さい店で身近な客しかいないときはまあまあで済まされることも。
日頃きっちりしているゆうきさんも、夜の人だけあってこういうところは臨機応変にやっているらしい。
「そんなんじゃ、あなたいつまで経っても結衣は落とせないわよ。せめて私が惚れるくらいのいい男にならないと」
いきなり何言ってんだこのおっさんは。
俺は別に結衣さんを落とそう等と考えた事は一度もない。
好意を抱いてくれてるのでは?と期待することがあるだけだ。
「あるわけないでしょ」
「だから、心を読まんでください」
そして、そんなズバリ言わんでください。
「へー、いっちゃんは私の事、落としたいの?」
ほら、結衣さんが興味持っちゃったじゃないですか。
「結衣さんにはお世話になっていて、すごい感謝をしていますし、尊敬しています。好きと言うより憧れですかね」
うへー、自分で言ってて柄でもねぇ。
ヤバいな、かなりまわってるみたいだ。
「ふぅーん、なんだつまんないの」
「え?」
え?
つまんないの?
そうなの?
ホントに?
「結衣、あんたそんな事をだれそれかまわず言ってるから変な奴に絡まれるのよ?いい加減ちょっとは自覚しなさいって。そのうち刺されてニュースなるわよ」
あ、そうですよね。
俺だけ、特別とかはないですね。
「えー、つまんないのは、つまんないよ。嘘言ってないもん」
「うそかどうかじゃなくて、相手考えて話しなさいっていってるのよ!もう、ほんとこの子は」
ゆうきさん、お母さん見たいですね。
多くのキャストが好んでアフターに使うのもよくわかります。
安心感違うもんね、頼りになるわー。
「あんたも、もっとしっかりしなさい!」
「ぐふ」
あ、ヤバい。
今いいとこに入った、吐きそう。
結局そのままトイレへ直行して、朝まで便座とお友達になった。
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