第8話

時刻は0時を回って少し、シイタケさんへ御暇の挨拶をし次なる営業返しのお店に移動中である。


色んな酒をチャンポンしつつもう5時間は飲み続けているのにも関わらず、少し前を歩いてる結衣さんの足取りはしっかりとしている。

対して俺はと言うと、かなりヤバい。 既にふらふらである。


「いっちゃんはさー、嵐に入る前は4人組のスターチルドレンってチームやってたんでしょ?」

「え?」


結衣さんはこちらを振り返らず、歩き続けている。

なぜそんな事を知っているのか。

なぜ今そんな事を聞くのか。

チームはもう3年も前に解散したのだ。


「なんで解散したの?」


振り返り、立ち止まった結衣さんの目はマジの目だった。

…まぁ、誤魔化すほどの事でもないか。


「チームの要が抜けたからっすよ」


簡単な理由だ、残った3人ではやれない、ただそれだけだった。


「なんで… なんで抜けちゃったの?その人」


意を決した様に聞いてきた結衣さんには申し訳ないが、そんな大した理由じゃないよ?


「あいつ、料理人になりたかったんっすよ。 んで、冒険者は料理学校へ通う資金やら資格とる資金やらを稼ぐ手段だったんですけどね。冒険者業が結構上手くいったもんで、早々に引退しっちゃった訳です」


そう言えば、あいつ抜けるってなった時、残りの二人には「なんで引き止めない」だの「勝手に決めるな」だの「冷たい」だのと、散々文句言われたっけなぁ。


「ほら、結衣さんにこの間紹介した焼き鳥。あいつですよ」

「えっ!?」


えって、そんな驚くほどの事もないでしょうに。

まぁ、厨房で焼き鳥焼いてるたーぼー見ても元冒険者とは思えんか。

あいつひょろいし。


「旨かったっしょ? 別に俺が偉いわけじゃないけど、あんな旨い飯出す店のやつがツレって、ちょっとした自慢なんすよ」

「へー、彼も…。確かにあの焼き鳥美味しかった。お客さんも凄い喜んでて、絶対また来ようって言ってたもん。たーぼー…たーくんだね。うん、覚えた」


彼も?

なんかちょっとひっかるなぁ、そもそもなんで3年前の事なんか知ってんだろ。


「結衣さん、なんでスターチルドレンとか知ってんですか?そんな有名でもなかったでしょ」


若手としてはそこそこ名は売れてたとは思うが、しょせんは冒険者界隈だけでだ。

結衣さんが知るような機会はないと思うけどなぁ。


「それは、ほら。私のお客さん、ベテラン冒険者さんも多いから。話のネタ的にも色々勉強もしてるんだよ? 新進気鋭のチームだったって聞いたことがあるの」


おう、なるほど。

おっさんどもが情報源か、それは詳しくもなろう。


「でも、そっかぁ。夢に向かって頑張ってた友達を応援しただけだったんだねぇ。そっか、そっか」


何がそんなにうれしかったのか、やたらに笑顔で頷く結衣さん。


「ほら、いっちゃん、次いくよー」


そういって俺の手を取り再び歩き出した。

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