第2話

前世、俺はサラリーマンをやっていた。

とある半導体製造装置メーカーの技術屋、エンジニアってやつだ。

簡単に言うと、工場に納入した大型装置の立ち上げ作業やら、調子が悪い時に修理にしに行ったりやらをしていた。

何を言いたいのかと言えば、出張が多い仕事で、顧客ともそれなりに付き合いがある仕事していた、と言いたいわけだ。

つまり、前世日本でそれなりにクラブやキャバクラと言った店を接待で使った事がある。


ただ、自分から好んで通うような事はついぞ無かった。

何故かと言われると、特に理由はない。

いや、逆に通う理由が見つからなかった。


だってね、高いお金払って、女の子にお酒飲ませて、お触り禁止ですよ?

例え美人で可愛い女の子がお酒を注いでくれて、楽しくお話出来たとしても、お触りは禁止なんですよ。

それだったらねぇ、普通に風俗行くかナンパでもしてた方が良いや、と思っておりました。


ええ、前世の俺は無知でしたね。

ほんと、馬鹿でした。

今、それを実感している。


「いっちゃんわー、冒険者してたんだよね?」


そう、これは練習だ。

練習なのだ、ドキドキしてはダメだ。

俺の太股に結衣さんの膝が刺さっているけど、意識してはダメなのだ。


「は、はい。一応…」


基本当たっている部分は膝だけとは言え、結衣さんとの距離が近い。

更に緊張してグラスを開ける度に、結衣さんがお酒を作ってくれるのだが、そのたびに前屈みなる結衣さんの羽が俺の頬を撫でるのだ。

これはヤバい。


「一応ってwww、この間も変態のしてたじゃんwww ほんとは凄かったんでしょ? だってねぇ、落ち込んでたのが肥中本店の前だもんねぇ」


そして相手の隙をついて的確に確信をついてくるトーク力。

肥中本店とは、この近辺で最大の銀行ネットワーク誇る銀行の本店、肥後中央銀行本店の事だ。

近辺ではこの銀行と取引出来るだけでもステータスとなる程の銀行なので、凄かったと誤解されるのも、まあ分かる。


「取引してたのは入ったばかりのチームですよ、俺じゃありません。俺は借金の返済で行っただけなので」


ほんとね、なんであんなチームに入っちゃたんだろう。

当時の俺をぶん殴って目を覚まさせたいね。


「え? 肥中と取引あったチームって、嵐? マジで? でも、あそこ全滅したんじゃなかったっけ?」


嵐。

そう、この恥ずかしい名前が俺の所属していたチームの名前だ。

ジャ〇ーズじゃねーよ!? こっちにはジ〇ニーズないから!

まあ、この肥後エリアじゃ似たような扱いではあったけど。


「俺ともう2人、全滅直前にチームに入った3人だけ生き残ったんですよ。で見事に借金だけが残りました。まあ何とか全額払えましたけど」


「へー、やっぱ凄いんじゃん。いっちゃんやるねぇ、嵐の借金返済出来るとかため込んでたねぇ」


ちょいちょいと腕をつつきながら褒められた、褒められた?

いや、やめて下さい、惚れてしまいます。


「あー、あの、私はいつまでこのやり取りと見ていれば?」


はっ!

そうだったこれは練習だったのだ。

何の練習?

それは本日体験入店をされた、こちら明日香さんの接客練習だ。

俺と結衣さんしか喋ってないとか言ってはダメだ。

なぜならナンバーワンの接客を見るのも新人さんの教育のうちだからだ、とは店長のお言葉だからである。


「ごめん、ごめん。ちょっと気になってた事聞いとこうと思って、長くなちゃったwww」


結衣さんはお茶目に謝っているが、明日香さんは若干呆れ気味である。

まあ自分の教育で自分ほったらかしにされてたら、呆れもするか。


「でもね、安心でしょ? 変な客が来ても、うちならいっちゃんが守ってくれるからっ!」


はうっ!

満面の笑顔で俺の心を取りに来ないでください。

お願いします、惚れてしまいます。


「まぁ、そうですね。元トップ冒険者が黒服やってるのは安心感が違いますね」


「でしょ、でしょ。安心出来るって大事なんだよね、この仕事。 安心出来ないと笑顔で接客出来ないもんね。 だからね、これから宜しくね!」


どうやら、結衣さんの中では明日香さんは入店確定したようだ。

この感覚、結構当たるんだよね?

なんでだろ?


「じゃ、店のシステム説明しますね」


キャバクラのシステムと言えば、1時間切りで時間何千円。指名料、キャストドリンクは別料金とかがお決まりだが、実は細かい所で色々違いがある。

指名料は無料ですよと言う店があったり、キャストドリンクは時間料金に込みですよと言う店があったり、お客が帰ると言わない限り自動で延長される店があったりする。

あとは、キャストと店の契約にも色々ある。

お店に従業員として雇われ給料制でお金をもらうかたち、個人事業主として店と契約し売り上げの※※%を貰うかたち、契約社員としてお店に雇われるかたち、派遣でくるかたちと様々だ。

雇用条件については、女の子から個人事業主として店と契約したいと言われる事もある。

お客さえ取れれば瞬間の実入りが全然違うからね、そのかわり大体自己責任になるので問題が起きると大変になる事も多い。


まあうちの店はお客に対してもキャストに対しても基本です。

1時間切りで時間5千円。指名料、キャストドリンクは別料金、キャストは基本従業員として雇用。


「この条件で大丈夫ですか?」


「はい、大丈夫です。宜しくお願いします」


決まりである。

夜は初めてとのことでしたが、結構決断早かったですね。

マーメード族の明日香さん、ひれじゃ無くて足があるんですね。


「では本日から宜しくお願いします」


と、大体月に2-3回はこして面接が有るわけだが、最近何故か教育に駆り出される事が多い俺。

特に結衣さんが教育するという時は、必ず呼び出されてる気がする。


これって、気に入られてると思って良いんですかね。

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