閑話3
人間失敗の半分はお酒が原因で起きるという。
では、お酒を飲むことが仕事である、キャスト達はどうなのだろう。
プロなんだから、意識をもって緊張し仕事してるんでそんなことはめったにない…事はなく、結構な頻度でやらかしているものだ。
今回はそんな、お酒の席で起きた悲劇について語ろうと思う。
エントリーナンバー4
ヘルプ兼やらかし担当 レイナさん(28歳、独身、人間族)の場合
レイナさんはベテラン中堅キャストである。
年嵩なこともあってキャスト達への面倒見もよく、普段はヘルプを中心に真摯に卒なく仕事をこなす、黒服や回し担当にとって大変ありがたい存在だ。
こんな事をいうのは大変失礼かもしれないが、ギャルっぽい見た目であるものの個性派ぞろいのうちの店では埋没してしまっている残念な方でもある。
店内身内では大変人気の人ではあるのだが、本人的にはそれで満足しているわけもなく。
指名を取るために色々迷走した挙句、限界酔っぱらってお客様に縋りつくと言う、へべれけ甘トラスタイルを確立した、たまに迷惑なキャストでもあるのだ。ちなみに下着はヒョウ柄を好んでつけるらしい。
そんなレイナさんだが、別に指名客を持っていないわけではない、そこそこ太い客もちゃんといる。
今回はそんな太客との一幕をご紹介する。
その日はレイナさんのバースデーであり、お客様は大層奮発されテーブルには3本の空いた大変お高いシャンパンボトルと、からのグラスが乗ったショット観覧車が回っている。
ショット観覧車とは9つのショットグラスを乗せてクルクル回る小さい観覧車の事である。特に意味はないが、そもそもキャバクラのメニューに意味を求めるのは間違っている、面白くて可愛ければなんでもいい世界なのだ。
ちなみにレイナさんはへべれけ甘トラモードに突入しており、甘えてお客様に寄り添ってるのか、酔っぱらって真っすぐ座っておられずにただ寄りかかって居るだけなのかは既にわからない。
ただ、えへえへ言いながらお客様の肩に噛みつくのは止めましょうね、あとが残ったら大変かもしれないでしょ。
「あぁ今日は飲んだわー、そろそろチェックして」
「やだ」
時間も午前1時を回っているので、少し早い程度のお帰りではあるのだが、今日は指名のバースデーである。
出来ればお店としても閉店ラストのお見送りまで居ていただきたいのだが、やだはないでしょう、やだは。
「レイナー、俺明日から出張なんだって、移動で寝るにしてもそろそろ帰らんとまじでヤバいんだって」
「やだやだやだやだ」
駄々っ子かよ。
「なー頼むよー、来週も来るからさ」
「やー、いてくれないんだったらレイナもいっしょ帰る」
「いやいや、お前まだほかの客いるだろ。それにほら、俺出張だからアフターも付き合えないしさ、な?」
なんと紳士でいいお客様でしょう。
もっと言ってやって下さい。
「やだやだやだー」
レイナさんの中で何かが切れたのか、駄々っ子状態が悪化してついにじたじた暴れだした。
これはいかん。
「お客様、大変申し訳ございません。レイナさんには言って聞かせますので、お会計はあちらで」
さっと、カットイン。
これ以上引っ張っても、お客様にもレイナにもよくない。
『すみません、レイナさんヤバいんで裏連れてってもらえますか』
インカムに向かって指示を出して、お客様をカウンターへ。
お会計をすませエレベーターホールへ御見送りしていると、そこへレイナさんが突撃してきた。
あ、取り逃がしちゃったのか。
そしてエレベータを待っているお客様の足元に縋りつき、「やだー」と叫びながらあろうことか足を広げて駄々をこね始めたではないか!
…レイナさん、スカート捲れあがってヒョウ柄のパンツ丸見えですけど、全然エロく感じないです。
むしろ情けないです。
その横を苦笑いで通り抜ける他のお客様。
俺まで恥ずかしいです。多分お客様も恥ずかしいと思います。
その後、レイナさんのお客様は仕方なくレイナさんをお持ち帰りした。
普通なら出入り禁止もののNG行為だが、今回は事が事なのでノーカウントです。
記憶をなくして翌日出勤したレイナさんは、周りに話を聞いたんでしょうね、それはもー凹んでおられました。
自業自得ではあるんですがね、お酒って怖いです。
エントリーナンバー5
天然担当 ゆめさん(兎人族)の場合
ゆめさんは天然キャラである。ガチの人なので別にキャラを作っているわけではない。
ある日開店前の着替中にヌーブラが切れてしまい、予備がないからとガムテープで肌に止めて直ったと喜んで仕事をこなし、後日すごく肌が荒れたと泣いていたガチの人なのだ。
この人場合、失敗の原因がお酒かどうかは甚だ疑問ではあるが、お酒の席で起きた出来事なのでここで紹介する事にする。
店のイベントが無事に終わった後、打ち上げの席での出来ことである。
「私ねぇさいきんー亀、買ったんだぁ」
キャスト達は日頃の疲れを癒すためにペットを飼っている事も多い。
なので、会話のとっかかりとしてはあまり不自然ではない滑り出しだった、買った生き物はともかく。
「へぇそうなんっすね。亀って可愛いですか?」
純粋な疑問である、亀の何を気に入って飼い始めたのか、それを知って会話を広げようとする努力でもある。
「えっとねぇ、可愛いじゃなくてー、美味しいお酒がぁ出来るかなって」
???
突然どうした?
なぜ亀を飼うと美味しいお酒が出来ることになるんだ?
いやまて、ここはファンタジー日本である。もしかしたら、お酒を造るというふざけた亀がいるのかもしれない。
「亀が、お酒を造ってくれるんですか?」
「えーそんなわけないよー、亀の甲羅でつくるんだよぉ?えーと、ほら、ここにー甲類って書いてあるでしょぉ?」
そういって俺に焼酎の瓶を指さすゆめさん。
その指先には確かに甲類焼酎と書かれたラベルが張ってある。
…いや、まて。そんな馬鹿な。そんな勘違いをするはずがない。
「え、えーとこれ甲羅で造ってるって言う意味じゃなくて、酒税法っていう法律上の分類ですよね?蒸留の方法で分類が違うんです。知ってますよね?」
「えーそうなのー?でもーこのまえーお客さんがー甲羅で造るんだぁって、スッゴイ力説してたよぉ?造り方も詳しかったよぉ?」
ゆめさん、それは担がれてるだけですよ。
真に受けちゃダメなヤツです。
その後、端末を使ってなるべく分かり易く説明し、ゆめさんに納得してもらった。
買った亀は結構可愛がっているらしい。
ちなみに、ヌーブラが切れてガムテープで張った話を聞いたお客様が後日ヌーブラを差し入れしてくれたという話を聞いた。お客様はサイズを把握しているのだろうか。いや、そもそもヌーブラの差し入れって…
まぁゆめさん本人は喜んでいたので多くは言うまいが、ゆめさんのお客様もたいがいだなと思った出来事だった。
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