第21話

3人連れのお客様が来店された場合、1時間5000円×3名+女性ドリンク等のプラスαの合計金額という感じで、キャバクラの支払いは基本的に卓の売り上げ合計で請求する。頼んでもわり勘にはしてくれないので注意が必要だ。

で、基本的にはこの売り上げがキャスト達の成績となるのだが、その成績の付け方は少々複雑である。


例えば、2人連れのお客様でお2人ともに元々指名のキャストがいる時は、相番で来店したお客様と呼ばれる。この場合のキャストの成績はだいたい分かりやすく折半で付くことになる。

では、本指名と言われる元々指名を持つお客様がフリーのお客様を連れて来店された場合はどうかと言うと、ウチでは卓の売り上げ全て本指名のキャストが総取りすることになっている。

例えフリーのお客様に付いたキャストが場内指名を取ってシャンパンを入れて貰っても、これは変わらない。

ちなみにうウチの店では一人で来店されたフリーのお客様に場内指名をされても、同じようにその卓での売り上げがカウントされなかったりする。


なぜこんなシステムになっているかと言うと、本指名と場内指名は店への貢献度が大きく違うと考えているからだ。

つまり、本指名のお客様はキャストに会いに来るのに対し、場内指名はまず来店されたお客様がその場で指名を決める為に、店から見ると売り上げへの影響は少なく貢献も少ないのである。

特にこの夜間外出自粛が出ている状況で、団体客を呼べるキャストは大変有り難く、店からしてみれば、優遇するのも仕方ない。


ただ、そうなるとその複数客の卓に付いた本指名以外のキャスト達の中には、うまみをあまり感じなくなる子もいて、やる気がない接客で本指名持ちのキャストと険悪に成ることもしばしば。


やる気があるキャストだった場合、その場を新たな出会いと捉えて積極的に接客してくれたり、場を盛り上げたりしてくれる。のだが、実はこれが更に面倒くさい事態を引き起こす事もある。


「はじめさん、今いいでしょうか」

「はい、何でしょう」

「ちょっと相談したい事が」


朝礼(朝じゃないけど、開店前のミーティングのを朝礼といっている)のあと、歌うまの明日香さんから声を掛けられる。

明日香さんとアイリンちゃんは俺の担当なので偶にあることではあるんだけど、今日の明日香さんは少し深刻そうな表情をしている。


「うん、ちょっと時間ありますから、Vipで聞きましょう。良いですか?」

「はい」


他のキャストの前じゃ話にくそうだしね。

明日香さんは少しほっとした感じで、頷きVipまでついてくる。

そんな明日香さんの様子を見て2人きっりで防音の部屋に行ってくれるくらいは、信頼されてんだな、とか場違いな感想を抱いてしまう。


「で、相談と言うのは?」


Vipのソファーに腰かけて暫く待ったが、なかなか話てくれないのでよほど言いにくい事なのだろう。


「あの、私今日、ひまりさんと相番で同伴する事になったんですが…」


この一言で相談の内容がおよそ想像ついてしまった。

ひまりさんは、うちの店で5指には入る人気キャストであるのだが、キャスト間でよくいざこざを起こす問題児。

しかも、ひまりさんの本日来店予定のお客様はとある地元企業の社長であり、ひまりさんの持つ太客の一人である。

前述したとおり、相番で来店された場合の卓の売り上げは折半である。

プライドが高く面子を大事にすると言われるバンパイア族のひまりさんは、さぞご不満なであろう。

これはちょっと、面倒な事になるかもしれないな。

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