第16話
ようやく14層へ到着した。
あいつらの反応はまだある、間に合った。
『彩佳、瑠璃!無事か!!』
念話を飛ばしながら、あいつらの反応の方へ駆け出す。
反応の方向からして、オークの森からそれほど離れてないようだ。
いや、まだ森の中か?
いやな予感が頭をよぎる。
オークは人間を繁殖の対象にできる。
女性冒険者が捕まれば、それこそ前世日本の薄い本なみに凌辱されるのだ。
『にーや!?え?なんで!?』
彩佳から応答があった!
『彩佳、無事か!?瑠璃は!?』
『ずっとオークから逃げ回っててるけど、なんとか無事生きてる、いまは休憩中で瑠璃は仮眠中』
ほっとした、どうやら命も貞操も無事のようだ。
まあ、体売れとか言った俺が、あいつらの貞操の心配してるとか、おかしな話だな。
『わかってると思うがいまそっちへ向かってる、移動はできるか?』
『無理、周り中オークだらけで身動きできない。今は木の洞に隠れて匂い消しながらやり過ごしてるけど、でたらまた追いかけ回されると思う』
ちっ、まじかよ。
『魔力は?』
『二人ともギリギリ、でも少し休めたところだから、多分3,4回は行けると思う』
『魔法打てるんだな?』
『うん、二人ともちゃんとしたスタッフ持ってるから』
『よしわかった、オークはこっちで何とかする。瑠璃を起こしていつでも逃げ出せるようにしてくれ』
『わかった…にーや、ありがとう』
『礼とか言うな、俺は一度お前たちを見捨てたし、今日来たのもたまたま見たいなものだ』
ホント、偶然だった。
いつでも連絡が取れたのに、連絡を取っていなかった。
俺かあの冒険者達のどちらかが、あの時間にファーストフードに寄らなかったら、間に合わなかった。
俺は兄貴失格だ。
『ううん、あの時もっとちゃんとにーやと話しをしとけばよかった。風俗は嫌だけど、借金してまで無理してダンジョンに入るような事にはならなかったと思うし』
借金してんのか。まあそれはそうか、貯金100万もなかったもんな。
中層装備だったらインナースーツくらいしか買えないもんな。
スタッフなんて安いヤツでも軽自動車くらいはするもんな。
『ホント馬鹿だな、お前らは。まあ、金の話は生きて戻ってからだ。もうすぐ着く。瑠璃は起きたか?』
『にーや、来たの?』
瑠璃だ、どうやらお目覚めらしい。
『彩佳にも言ったが、たまたまだ』
『そう、でもありがとう』
『おう、今回の馬鹿は後でたっぷり説教してやろう』
『馬鹿はにーや、こんなに可愛い妹を放置なんてありえない』
『はは、そうだな、その説教も後でたっぷりしてもらおう』
『ん』
走るのにじゃまだったショートソードを鞘から抜いて、リングスタッフに魔力を込めた。
俺の戦闘スタイルは大火力魔法をぶち込んだ後に突っ込んでの接近戦だ。
自慢じゃないが、ちゃんとした装備があれば瞬間ダメージは深層冒険者の足元くらいは出る自信がある。魔力量が少なすぎて、深層にまでたどりつけないんだけどな。
『彩佳、爆裂打つからシールドたのむ。瑠璃、距離詰めとくからオークどもが乱れたら彩佳を掴んで瞬間移動で俺のとこへ。俺が2人を確認したら、もう一度爆裂打っていっきにずらかる!』
『OK,にーや』
『りょ』
「ったく、ほんとにギリギリじゃねぇか…」
彩佳と瑠璃の魔力反応はまだ健在だが、その周りはオークどもの気配だらけだ。
森を駆け抜けながら、二人との念話を続ける。
彩佳の声は疲れ切っているが、元気を装っているのがわかる。
瑠璃は相変わらず無口だが、簡潔な応答からも疲れが伺える。
会話を続けながら兄貴分として、一度見捨てたという自責の念と、再会の安堵感がない交ぜになっていた。
「オークも久しぶりだな…、カウント行くぞ! 3,2,1、いま!!」
オークたちの姿が視界に入った瞬間、詠唱状態だった魔法を発動する。
「《爆裂・エンフレイム》!」
地面を揺るがす轟音とともに、炎の爆発がオークの群れを吹き飛ばす。
群れの向こう側で彩佳のシールドが発動し、爆風の余波が安全圏内で留まっているのが見えた。
その直後、瑠璃が彩佳を掴んで俺のところまで瞬間移動を発動。
彩佳と瑠璃が目の前に現れた瞬間、張り詰めていた緊張が解けた。
二人とも汚れてはいるが、大きな怪我はなさそうだ。
「にーや、来てくれた!」
「あいさつは後だ。 次の爆裂でこの場を離れるぞ!」
「わかった!」
再度魔法を詠唱し、二人を庇いながら最後の爆裂魔法を放つ。
森を抜けた後も振り返ることなく駆け抜ける三人。
彩佳と瑠璃の息遣いが後ろから聞こえる。
まだ完全な安全圏とは言えないが、確実に生還への道が見え始めている。
「ほんと馬鹿だな、こんな無茶するなよ…」
振り返ると、彩佳が泣きそうな顔で睨んでいた。
「にーやだって、馬鹿だよ!あんなこと言ったくせに!」
「ああ、悪かったな。それはこれからたっぷり詫びる」
「馬鹿!にーやのバカー!!」
瑠璃は、疲れた顔ながら小さく「ん」と頷いた。
こうして三人の再会は、ひとまず命を繋ぐ形で幕を閉じた。
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