第17話
2人と合流して何とかオークの森を脱出出来たのは、日付が変わって1時ころ。そのまま留まるのも危険なので10層のセーフエリアまで引き上げてきた。
今はそのセーフエリアで野営中である。
「あぁあ、オーク結構倒したのに手ぶらになっちゃったね」
カラ元気で言っている事は分かっているが、その意地汚い貧乏性が今回の事態を招いた原因でもあるので、ここは一言言わねばなるまい。
「ほんと、お前のそういう意地汚いところ直せよ。命あっての物種、安全マージンあっての冒険者だ。無理して稼ごうとした結果が今回だろ」
「ぶー、にーやはそのおじさんみたいな考え方を直した方がいいよ」
いや、だって俺中身は結構いい歳のおじさんだし。
「はぁ。今回身に染みただろうに。だいだいオークの森に取り残されたのだってチーム解散した後に、倒したっていうイレギュラーの素材回収してたからじゃないのか?」
「ぎくぅ」
いや、口で言うなよ。
「そのとおり。なんで、にーや知ってる?」
「いや、何年付き合ってると思ってんだ。お前らがオムツはいてる時から知ってんだぞ?解散したって冒険者がイレギュラー倒したけど、群れが出て撤退しったって話聞いてピンと来たわ。どうせ、適当言ってチーム解散した後にこっそり魔法で回収に行こうしたんだろうってな」
「うぅばれてる」
「で?ちゃんと回収しのか?」
ここ重要。
イレギュラーの素材ってお高いんですよね。
無事だったんだもの、役得あっても…いいよね?
二人は答えない。
が、そのニヤついた顔でバレバレだから。
「そうか、そうか。今回俺もかなり無理して装備揃えたからな、お支払いには期待させて貰いましょうか」
冒険者にはピンチを助けて貰った場合は、しっかり報酬を払いましょう。と言う暗黙の了解がある。
この辺の感覚は現代日本っぽい。
「えー、やっと借金返せると思ったのにぃ」
「いや、流石に全額とかは言わないから」
「うーん、じゃあ、報酬は私がにーやのお嫁さんになるって事でいい?」
「なにが、じゃあだ。金じゃなくなってんじゃねーか」
「お買い得だよー」
「いや、更に俺が買うことになってるよ?」
「にーや、私には結婚の先約がある。ざんねん」
「いや、なんか振られた感じになってるし」
「この距離感が懐かしい、やっぱりにーやだからだろうな」
「あん? なんだって?」
「私を振ったにーやはもう結婚できないね、っていったの」
「おまっ!」
こんなやり取りも久しぶりだ。
やっぱり、こいつらとは家族って言うか、身内なんだなとつくづく思う。
「あぁあ、でもこれからどうしようかなぁ。またチーム解散しちゃったし。組んでくれるとこあるかなー」
俺の方をチラチラ見ながら棒読みのセリフありがとよ。
ため息をつきながらも、どこかその言葉に隠れた不安を感じ取る。
まぁこいつはいつも強がってるけど、その実少し寂しがりやだ。
それに、今の状況を2人で立て直すのは確かに厳しいだろうな。
「今の店は止めるつもりないけど、冒険者には復帰することになりそうだし、まぁ暇が出来たら組んでやらんこともないぞ? けど、それでも冒険者一本はきついだろ?」
「うーん、そうだねぇ。どうしよ?」
彩佳は相変わらずの調子で返してくるが、その声には微かな迷いが滲んでいる。
「にーや、いまクラブ フィッシュテールで働いてるって聞いた」
「おう、よく知ってんな」
フィッシュテールは内の店の名前だ。ドレスの名前からとったらしい。
別にキャストがみんなフィッシュテールのドレスを着ているわけではないが。
俺がそう答えると、瑠衣は少しニヤリと笑ってみせた。
「私達も働く、紹介して?」
俺は少し考え込む。
確かに、店の条件は悪くない。彩佳たちが働けるかはオーナー次第だが、あの店の環境ならば、2人ような冒険者も安心して収入を得られるかもしれない。
寮あり、賄いあり、基本給もそこそこ、キャストなら出来高次第で給料は天井知らずだしな。
「あぁ、そっか、それもありか。じゃ帰ったら面接するか。多分合格だわ」
そう答えた瞬間、彩佳の表情に安堵と期待が入り混じった色が浮かんだ気がした。
「あの時は酷かったけど、にーやは基本的に私に激アマだよね」
そう行った彩佳の笑顔は昔見たものと同じで、どこか安心させられた。
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