第26話
「ちょっと、ヘルプに光付けるとか何考えてるわけ!?」
ひまりさんと明日香さんが卓について1セット過ぎた頃、ひまりさんがカウンターへ怒鳴り込んできた。
どうやら、お客様のトイレタイムに併せてクレームを言いに来たらしい。
既に光さんはあの卓の社長さんから場内指名を貰って残っているから、もうヘルプじゃないけどね。
ちなみに、指名のキャストを増やしてハーレム気分を満喫する事は可能である、人数分だけ料金は増えるが。
「どうも、こうも、太客なんだし、下手なヘルプ付けるより良いだろ。何が不満だ?」
「何が不満って、ヘルプなんだし下の子つければ良いじゃない」
「今日は結衣も団体呼んでるし、今のご時世で下のキャストが足りてないんだ。使えるキャストを有効活用してるだけだ」
「それにしたって、よりによって光なんて」
「実力は折り紙付き。安心だろ?」
ニヤリと笑って、ひまりさんにおしぼりを渡してお客様トイレへ向かわせる荒木さん。 頭頂にライトが反射して目が眩みそうだ。
「ありゃ、卓でそうとう弄られてるな」
なんでもニヒルに決めようとする荒木さんだが、傍から見ていると漫画に出てくるギャグ担当のおっさんにしか見えない。 仕事では、めっちゃ頼りになるんだが。
「弄られている、ですか? ひまりさんが? ひまりさん弄っても盛り上がらないと思いますけど」
「ひまりはな。店としては卓が盛り上がればそれでいい。多分、ひまりは話に入っていけてないぞ。光は気に入らないキャストには容赦ないからな」
特にスナック経験者に多いが、キャストの中には団体客相手が異常に上手な人がいる。 自然と卓の会話の中心にいて、お客様も楽しませる。場を盛り上げて、お酒の量が増える。
普通、その卓にメインのキャストがいれば、遠慮するかメインのキャストを話題の中心にする事が多いが、話題の持って行き方次第でメインのキャストを貶す事もあるという。
光さんは正に今ひまりさんを貶しているだろうということだ。
「後学の為に、ちょっと様子を見てきたらどうだ?」
俺に再びニヤリと笑いかけ、そんなことを言う荒木さん。
だから頭頂が、以下略。
換えの氷を持ってVipルームに入ると、ちょうど明日香さんが昭和歌謡を熱唱していてみんな聞きほれていた。
うん、明日香さんやっぱり歌ってると生き生きしてるな。
「ホント、明日香の歌いいわ。歌手になれば良かったのに」
「昔はレッスンとか受けてて何回かオーディションもチャレンジしたんですけど、全然でした。でも、諦められなくて今でもたまにライブハウスで歌ってたりするんですけどね」
へー、明日香さんくらい美人で歌が上手かったらデビューくらい直ぐ出来そうなのにな、芸能界は厳しいね。
「明日香ちゃん落とすとか、そのオーディションの審査員見る目ないよな」
「マジっすね、俺今日ファンになりましたもん」
「俺も俺も」
良い感じだ、いい感じに盛り上がっている。ひまりさんを除いて。
自分がメイン張るはずの卓で空気、これはキツい。
「ひまりも何か入れなさいよ、せっかくなんだし」
この1時間でいったい何が起きたのか、ひまりさん既にこの卓においてただグラスにお酒を作る置物と化していたひまりさんに、ぶっこんで行く光さん。
実はひまりさんはあまり歌が上手ではない。下手と言うほどではないのだが、明日香さんの歌った直後だと下手に聞こえてしまう。
プライドの高いひまりさんには、キラーパスと言っていい。
「私はいいわ」
一瞬静かになる、Vipルーム。
いや、いくら気に入らないからって、その対応はダメでしょ。
お客様、ひいちゃいましたよ?
「もう、なにすねてんのよ。この子は。しょうが無いわね、じゃあ皆でこの曲歌わない? 1画面交代で。間奏はイッキね」
不機嫌なひまりさんとは対照的に、明るい感じで声を上げて歌を入れる光さん。
もうどっちがメインか分からないなこれ。
その後、この卓のお客様は閉店まで楽しみお帰りになられた。
社長さんは途中で光さんに指名替えをすると言っていた。
ひまりさんは翌日から店に来なかった。
いや、お願いはしましたけどね。
これオーバーキルですよ、ひかりさん。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます