第10話
出勤前に何か小腹に入れようと、ファーストフードによってカウンターに並んでいる。
時間もちょうど帰宅時期だし、カウンターには結構な人が並んで俺に順番が回ってくるまでは暫くかかりそうだ。
手持無沙汰で端末をいじりながら「あぁ今日の出勤たりてたかな」とか考えていると列の前に並ぶ2人組の冒険者っぽいやつらの話が耳に入ってきた。
「なんとか帰ってこれて人心地ついたな」
「今回ちょっとヤバかったしな、臨時チームでイレギュラーに会うとかついてないぜ」
「だな、イレギュラーがなんとかなっただけでも奇跡だって。あんな群れはどうにもならんて」
「まぁな。でも、あの子達もちゃんと逃げきったかなぁ」
「まあ大丈夫だろ。あそこに居たんだし、あの辺はよく狩場にしてたって言ってたじゃねーか」
「まぁ、確かに2人の連携はそこそこ取れてて、ぱっと見中堅くらいの実力はあったもんなぁ。でも装備がなぁ。やっぱ心配だわ」
どうやら、ダンジョンで事故って臨時チームを現地で解散したらしい。
偶にある話だ。
臨時チームだとそこまで信頼も出来んし、秘密のスキルとか魔法とか道具とかがあっても使うのは憚られるからな。
緊急時にはデメリットが多いのだ。
「彩佳ちゃん、無事にいてくれよぉ」
「おまっ、あの子狙ってるのかよ。まだガキじゃねーか」
「狙ってるとかじゃねーよ! そう、ある意味親父的な気持ちだって!」
「んじゃ、瑠璃ちゃんの心配もしろよ、ったく」
彩佳?瑠璃?
まさか、あいつらかっ!?
「ちょっと、その話詳しく聞かせてくれない?」
「あぁ?なんだお前」
気が付いたら冒険者の肩を掴んでいた。
肩を掴まれた冒険者は俺を怪訝な顔で見ている。
「その現地解散したのって、いつ?場所は?」
「だから、なんだよお前。喧嘩売ってんの?」
「いいから、教えろよっ!」
思わず、冒険者の肩を掴んだ手に力が入る。
「いって!このガキッ、放せっ!!」
冒険者が俺の手を振り解こうと拳を振り上げたところで、もう一人の冒険者がその腕を受け止めた。
「あんた、あの子達となんか関係あんの?」
関係も何もこの辺りの冒険者で、ガキ扱いされる女2人組で、彩佳と瑠璃って言ったら。
「昔馴染み」
あいつらしかいない。
「あん?そういやお前のツラどっかで…」
俺に肩を掴まれた冒険者の顔が、また怪訝なものになる。
どうやら、記憶を探っているようだが…
「あっ!思いだした!おまえ、デスラ」
おっと、それ以上はいけない!
「ー…、いてっ!!いや、まじで、痛いって!」
ふう、危うく黒歴史を公開されるところだった。
…、いやいや今はそれどころじゃないんだって。
改め話聞かないと。
「俺の事はいいから、解散したのって、いつ?場所は?」
どうやらこの冒険者達は俺の事をご存じだったようなので、肩を放しても答えてくれるだろう。
「昨日、健軍14層、オークの森だ」
昨日か、かなり厳しいな。
俺は掴んでいた冒険者の肩を開放し踵を返す。
「あの子達は、危ないのか?」
立ち去ろうとする俺の背中から尋ねる冒険者の声に振り返り
「この恩は必ず形あるもので返す、助かった」
そう答えるのが精一杯だった。
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