亀裂から溢れ出す悪 2

 瀬那たちは放課後になるとゲームセンターへと向かった。対戦ゲームやレースゲーム、カードゲームにUFOキャッチャー、それ以外にもたくさんのゲーム筐体が並んでいる。


 瀬那はあまりゲームをするほうではなかった。小学生のころにヴィジョンに気づき、きっかけを経てヴィジョンに対する興味が強くなったからだ。スポーツの練習を熱心にするのと同様に、瀬那は自分のヴィジョンがどういうものかを知りたかったからだ。


 それでもゲームをするのは嫌いじゃない。源氏は田舎からはるばるフロンティアにやってきて、あまりにも充実した都市のゲームセンターに驚き歓喜し、度々瀬那や湊を誘って遊び相手にしていたから、瀬那もそれで多少はゲームに興味をもっていた。


「んじゃあ、今日はこのレースゲームで勝負じゃ!」


 湊はゲームのタイトルみて首を傾げた。


「ハイパーEフォーミュラー? F1とは違うの?」

「Eフォーミュラーは電気で動く車でレースをする実際のモータースポーツじゃ。で、このゲームはそれをもっとハイテクにしたマシンで遊べるっつうわけじゃよ。ブーストやジャンプ、コーナーやストレートでマシンを変形させて状況に合わせて戦うのは心理戦の連続なんじゃ」

「瀬那にレース系のゲームは源氏にとって分が悪いんじゃないの?」

「それくらいハンデじゃ。いいじゃろ瀬那」

「俺はなんでもいいよ」


 三人は筐体のシートに座ってゲームを始めた。筐体は全部で八台並んでおり、そのすべてを連動させて店内対戦ができる。この時は瀬那たち以外にも小柄な女子が瀬那から二つ空けてシートに座っていた。


 少女は店内対戦の相手を待っていたらしく、画面には挑戦者募集中の文字が画面の右上に出ていた。


 瀬那たちはそのことを知らず店内対戦を選択しゲームを始める。当然少女とも対戦することになる。


 レースコースは三重県に実際にある場所で、国際的なモータースポーツが開かれているコースだ。


 スタートシグナルが緑になり、コンピューターもあわせて全二十六台が一斉にスタート。F1とは違った独特の甲高い音がシートの頭部分にあるスピーカーから聞こえてくる。


 実際のレースよりもハイスピードで展開されるため、レースゲームに慣れていない人がプレイするとすぐにコースアウトしてしまう。湊は最初のコーナーでコースアウトし最後尾となってしまった。


「なんじゃなんじゃ。もうコースアウトしたんか」

「これ速すぎるよ……」

「んだら前の車に合わせて走ればいいんじゃ。ブレーキランプを見ればブレーキを踏むポイントもわかるじゃろ」


 一位は源氏、二位がコンピューター、三位を瀬那が走っていた。

 瀬那はこのゲームを遊ぶのは初めてだったが、源氏とやってきたレースゲームの感覚と、ヴィジョンを使う時の動体視力が活かされヴィジョンを使用していない時でも速さに関しては常人以上に対応できていた。


 しかし、プレイスキルの差はそう簡単に埋まらず、源氏はどんどん離れていく。


「このままぶっちぎりかの~」


 余裕物故いてた源氏の真後ろにマシンが忍び寄る。ハイスピードコーナーからのシケインで一気に差を縮められ、ブレーキングも上手く、すでに目と鼻の先だった。


「後ろのは瀬那か? もうここまで来たんか」

「いや、俺じゃない。俺は今四位」

「んじゃ、湊か?」

「今二十位だよ」

「でも、後ろはプレイヤーじゃ。いったい誰が……。もしかしてあのちっこい少女か!」


 瀬那はちらりと少女のほうを見てみた。

 さっきまで小学生か中学生の少女がゲームを楽しんでいるだけだと思っていたが、対戦となると少女の手足はものすごく俊敏に動いていた。シートを一番前まで移動させても少し足を伸ばさないと辛そうだが、しっかりと足を伸ばしてプロのような手つきでハンドルをコントロールしていた。

 

 最終ラップになり源氏と少女の一位争い。三位は瀬那だったが前との差は四秒以上開いており、どちらかがミスをしない限り抜くことはできない。


 一進一退の攻防が繰り広げられ、どちらが勝ってもおかしくない。しかし、少女はハイスピードコーナーで源氏の真後ろにぴったりつき、空気抵抗が減りマシンのスピードが出やすくなるスリップストリームを利用して横並び、そこから残ったブーストを一気に使ってシケイン直前に前へ躍り出る。そのまま緩やかなコーナーの後ストレート走り一位となった。


「くっそー!!! ちびっこにやられたー!!!」


 源氏はまさか子どもに負けるとは思っておらず、悔しさが爆発し声を荒げた。

 瀬那が少女のほうを見ると、さっきまでとは打って変わって安心しシートに体重を預ける姿があった。


「このレースよくやってるの?」


 つい瀬那は問いかけてしまった。


「え、あ、そうなんですよ。小さいころから好きで。初代からやってるんですよ」


 ハイパーEフォーミュラーは二十年前に放送されたアニメで、三年後にはゲームセンターのゲームとして設置され、その二年後に家庭用ゲームとして発売された。

 女の子がハマりそうな要素はあまりないが、結構うまい源氏を抜いた理由は初代からハマったからこそだろう。


「おい! ちびっこ! もう一回勝負じゃ!」

「ち、ちびっこって……。まぁ、勝負を挑まれたのなら受けて立ちますよ!」

「大人の怖さを思い知らせてやる!」


 高校生も子どもだろうが、という突っ込みを言いかけた瀬那だったが、言うよりも早く再度挑戦が始まった。瀬那や湊も参加することになったものの、結果は惨敗。源氏は五戦とも少女を抜けず敗北した。

 

「どうですか。私の方が速いでしょ」

「こんの~~! いいんじゃ、実際に走ったらちびっこより瀬那のほうが速いんじゃ」

「いや、どういうマウントだよ」


 すると、少女は瀬那の名を聞いて問いかけた。


「もしかして、人助けをしている瀬那さんですか?」

「たまにね」

「あの、だったらおねがいしたいことがあるんです!」


 少女は必死に瀬那に頼んだ。

 話を聞くために瀬那たちは三階のカフェスペースの窓際の席に移動した。

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