ここは未来都市フロンティア 3
瀬那の入った倉庫は配達用の食品管理倉庫だった。長持ちする材料や調味料などが積んである。扉を開けて男が入ると余裕な声色で話し始めた。
「弱者が強者と同じように力を使えるのは素晴らしいだろうよ。そこに金銭が発生するのは当然さ。例えそれに依存しようが壊れようが俺には関係ない。馬鹿は気づかない。自分の首をしめてることにな」
電気を通しシャッターを開けるとまだ完全に日が落ちてないために光が中へと差し込む。すると、光に照らされ背を向けた瀬那の姿が見える。
「なぁ~、お前がやっているのは偽善だ。弱者のすがる道を封じ強者の社会で過酷に生きろと言っているだけ。お前自身は力があるのになぁ!」
「人間は成長できる。簡単に手に入ったものでは破滅するだけだ」
「破滅してもいいじゃないか。夢を見れただけでも満足するべきだ。どうせ弱者は自身の弱さを環境のせいにして強くなろうとしない。そんな人間は消えても誰も気にしなわけさ。大金を使って社会に回す方がよっぽど人のためになる」
「腐ってるな、お前」
「かもな。だが、社会が腐っていればこうもなる。終わりにするぞ!」
男が電気を溜めて放出する瞬間、瀬那は高速の突きでボトルを軽く破壊し男へ投げつけた。液体が飛散するボトルが近づくがそんなことはお構いなしに電気を放出する。
しかし、瀬那の下へ届かず途中で消えてしまった。男が能力を使ってきてこんなことはなかっために驚きを隠せていなかった。
その隙に瀬那は距離を詰め男へと殴り掛かる。
「速くたって正面の攻撃を食らう分けねぇだろうが!!」
両手を広げるとネットのように電気が広がりバリアとして攻撃を防ごうした。
「触れれば痛いぞぉ~」
「歯を食いしばれ。この一撃はちゃんと打ち込むぞ」
「バカめっ! 腕の通るとこに集中的に電気を込めればお前は痛みで勢い落とす!」
腕が電気のバリアに触れた。
男はニヤリと笑みを浮かべるが次の瞬間、瀬那の拳が男の顔面に直撃し倉庫の外まで大きく飛ばされてしまう。
「な、なにーーーっ!?」
「さっき投げたのは油さ。油は電気を通さないからお前の攻撃は途中で勢いを落としたんだ。そして、俺の腕にもサラダ油を塗りたくっておいた。お前が動揺してる隙にべっとべとにのな。一瞬の攻撃ならこれで通せる」
「だ、だが! この距離は俺の距離! 今の一撃で仕留められなかったことを後悔しろぉぉ!!!」
広範囲に広がる電撃。瀬那はちかづくことができなかった。しかし、それでも余裕の表情で手のひらにシールをつけて男へと向ける。すると、電撃が発生し男のほうへと放出された。
「くそっ、俺の能力をコピーしたシールを手に入れてたか!!」
男は慌てて自身の電気を放出し相打ちさせて消滅させた。
「そういうことか。電気のヴィジョンとは言え万能ではないみたいだな」
男は逃走するために海沿いにある鞄のほうまで走っていった。
さらに、広い場所へ逃げ倉庫から離れることでこれ以上油を使わせる危険性を排除する。瀬那は男に対して直線に立ち手に持っている醤油のボトルを男へと投げつけた。
「そんなもので俺を倒せると思うなよ! 素人がこの距離で投げても勢いは落ち――」
言いかけたところで醤油のボトルは加速し男の顔面へと直撃する。
「ば、ばかな……。明らかに当たらない位置だったはずなのにしかも加速しただとぉ……。こうなったら一撃でお前を殺せばいいだけだ。これでも食らいやがれ!!!」
油断を捨てた男は今まで以上の電気を手に溜め始める。バチバチと鳴り響くと同時に、溜めているだけで周囲に電気が発生するために近づくことは困難だった。
「へへっ、次は体に穴が開くぞぉ!!!!」
凄まじい速さの電撃に対して瀬那は速度を上げて真正面から向かった。
愚かな行為だと腹の中で笑う男の予想とは反して電撃は瀬那から大きく反れてしまい気づけば瀬那は目の前。強烈なアッパーを食らい体は宙に浮いた。
「な、なんでだ……」
「さっき殴った時、お前にシールをつけておいた。醤油には俺の加速を、お前には視認錯誤の能力。シールは表面に能力をコピーさせると張った本人に作用するが、裏面にコピーすると張った本人や物質が能力の影響を受ける。お前が裏面にコピーした時に捨てたおかげでわかった。あれがなければこの戦いでお前に近づくチャンスはもうなかったかもしれない」
「そ、そうか……。さっき倉庫裏が光ったのは二重に能力をコピーさせた影響。能力が消えて再度コピーをしなおしたのか。それに自身の力をコピー……。――いやまてよ! 電気に錯誤に加速、全部で三枚ということは……さっきの女がっ!?」
立ち上がる男の前に立ちふさがる瀬那。
握り拳を作って男を呆れた表情見つめる。
「そういえばさっきさ、悪行をするやつはブレーキがないっていったな。でも、仮に善行を積むやつにもブレーキがなかったらどうする?」
「や、やめろぉ。金ならやるから見逃してくれぇ」
「悪い、止まりそうにない」
瀬那は男へと拳繰り出した。しかし、男もただそれをくらうだけじゃない。さっきパンチを受けた時に速さを把握しカウンターで瀬那の拳を掴もうとしていたのだ。油が徐々に落ちている今なら電気を通せる。
だが、その目論見は大きく外れ気づけば瀬那の拳は再び顔面に直撃。
「俺が本気を出せば常人の3倍以上くらいのスピードを出せる。あくまでスタミナに限りはあるがな。それに殴る蹴るという短い距離ならもっと速い。お前が吹き飛ぶ前にありったけをうちこむことだってできるさ」
「や、やめろぉぉぉぉ!!!!」
「過ちに気づくのが遅すぎたな。お前には札束よりも鉄拳制裁がお似合いだ。――全部もってけぇぇぇ!!!」
目にもとまらぬラッシュが男を襲う。
ポケットから封筒が漏れるとラッシュの勢いで空中へと舞い中から札束の雨が降る。男は強烈なラッシュを食らい海へと落下。
「そこなら電気は使えないはずだ。お前は電気を扱うことができるが電気を吸収することはできない。もし吸収できるなら俺が放った時に焦る必要はないはずだからな」
舞い落ちる札から沙菜と紗江と瀬那が支払った分だけつかみ取る。
「お前は慢心しすぎた。力なき者を不当な方法で依存させ金を巻き上げた報いを受けろ」
紗江、沙菜と合流し、男を倒し取り返した紗江が買った分のお金だけを手渡した。
沙菜は自分が間違った行動をしているとわかっていたがそれでも力を手に入れたことの喜びと快感に飲まれてしまい数回通ってしまったことを反省している。
「沙菜、ヴィジョンはまだ発現してないんだろう」
「はい……」
「確かに家族がヴィジョンをもっているのに自分だけヴィジョンがないのはつらいよな。特にこの都市だと多くの同年代がクラスは違ってもヴィジョンをもってる。だけどな、血がつながっているなら君もヴィジョンに目覚める時が来るさ。俺の妹だって俺より発現するのは遅かったからな」
「瀬那さんの妹さんはこっちにいないんですか」
「俺がこっちに来たときはまだ妹のヴィジョンは大したことなかったから東京にいる」
「そうなんですね。……私は家族でこっちにきて周りとの違いが嫌だった。でも、お姉ちゃんや瀬那さんが間違いを正してくれたおかげで心の中にあったもやもやが晴れた気がします。いつになるかわからないけど、ヴィジョンの発現をまってみます」
「それでいい。ここは未来都市フロンティア、未来へと進もうとする限り見捨てないさ」
人間は平等ではない。
素質や環境によって知能や肉体やお金には絶対に差が発生する。
強い者を疎ましく感じる時もあるだろう。
自分の弱さが悲しくなる時があるだろう。
だが、力なき者が自身の力と協力者により力を得た時、そのポテンシャルは強者を凌駕することがだって可能。
過酷な運命に立ち向かった者には元からもっている者よりも遥かに精神的に成長ができる。
「そうだ、瀬那が言ってた報酬今からでもいいかな?」
「いいのか! だったら早く行こう!」
三人が向かった先はちょっと洒落たデザートのお店だった。
「本当にそんなんでいいの?」
「むしろこれがいいんだ。ここって美味しそうなデザートがあるのに女性客ばっかで入りづらかったからさ」
報酬とは女性に人気なお店に入るのを手伝ってほしいという些細なものだった。
制服が汚れ傷ついているのにこんなことでいいのかと思っていた紗江だったが、瀬那が美味しそうに食べる姿をみて気を使っているわけでなく本当にこれでいいのだと理解した。
「――あんた、勝手にグングニルのターゲット倒したでしょ」
「こ、この声は……」
立っていたのは腕を組んで明らかに穏やかじゃない様子の可憐だった。
「別にあんたが人助けとかするのは構わないけどさ。こっちは計画立ててあいつを捕まえようとしてたわけよ。今までの努力を水の泡にした報い……受けてもらうわよ!」
「最後までこのデザートを堪能できそうにないな……。紗江、お金置いてくぞ。沙菜、何かあったら連絡してくれ、俺に出来る範囲なら手伝うよ。じゃあな!」
瀬那はデザートがまだ半分残っているというのに外へと走ってしまった。
「待てっ!!」
可憐も外へ出るとグングニル特権で街中で能力を使用。炎の噴射で空を飛びすさまじい勢いで瀬那を追った。
「な、なんだか忙しい人だね……」
「でも、すてきな人じゃない?」
力あることが当然の社会で格差が生まれることは必然。
だが、そんな中で調和を乱さないために戦う者はいる。
ここは未来都市フロンティア。
未来はここにある。
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